論文紹介:膵がんの早期発見を目指して〜日本の多施設研究から〜|みゆき消化器内視鏡クリニック|多摩市永山の消化器内科・内視鏡検査

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MRIと超音波内視鏡による膵がんドック

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論文紹介:膵がんの早期発見を目指して〜日本の多施設研究から〜

論文紹介:膵がんの早期発見を目指して〜日本の多施設研究から〜|みゆき消化器内視鏡クリニック|多摩市永山の消化器内科・内視鏡検査

2025年9月10日

はじめに

膵がんは「沈黙のがん」と呼ばれ、初期症状に乏しいため早期発見が課題となっています。しかし近年の研究により、膵がんのごく初期に現れる膵臓の小さな変化が少しずつ分かってきました。この変化を見逃さずに精密検査をおこなえば、完治を目指せる「がんが膵臓内にとどまっている初期段階(ステージ0〜1)」の段階で発見できる可能性があります。

とはいえ、このような早期発見例は膵がんの専門施設であってもそう多くはありません。日本国内でも、早期膵がんが実際にどのくらいの頻度で見つかっているのか、その詳細は十分に分かっていません。

そこで日本の複数の医療機関が協力し、早期膵がん症例を集めて現状を明らかにしようとしたので、今回ご紹介する研究です。

引用論文:

「日本膵がん早期診断研究会(JEDPA)による多施設共同研究」

次回は、この論文の内容を分かりやすく解説していきます。

早期膵がんとは

厳密には「早期膵がん」の定義はありませんが、本研究では以下のような膵がんを「早期膵がん」と定義しています。

早期膵がんの頻度と患者背景

日本国内14施設で診断された6,942例の膵がんのうち、

・ステージ0:51例(0.7%)

・ステージ1:49例(2.3%)

合計200例(2.9%)が早期膵癌でした。

つまり、膵がん全体のうち早期に見つかるのはわずか3%未満ということになります。

計200例の早期膵がん患者の背景は以下の通りです。

膵がんの危険因子としては、糖尿病が最も多く、ついで喫煙、膵管内乳頭粘液性腫瘍乳頭(IPMN)でした。

早期膵がんの発見のきっかけ

早期膵癌は、以下のような場面が契機となって見つかっています。

・自覚症状からの受診

・健診や人間ドックでの画像検査(腹部エコー、CT、MRIなど)

・血液検査異常(膵酵素や腫瘍マーカーの上昇)

・他の病気の検査中に偶然発見

注目すべきは、なんらかの症状があったのは全体の25%(50例/200例)に過ぎなかったということです。残りの75%は無症状で、偶然の検査で見つかっています。

また、血液検査(膵酵素や腫瘍マーカー)の異常が見られたケースは少数でした。特に重要なのは、ステージ0の膵がんで腫瘍マーカーが上昇していた例は1例もなかったという点です。

早期膵がんの画像所見

早期膵がんの画像診断には、大きく分けて直接所見(腫瘍そのものを映し出す)と間接所見(膵がんによって起こる変化を映し出す)があります。


間接所見の代表が膵管拡張で、これは膵液の通り道である膵管が太くなっている状態です。膵管拡張は、CTやMRIはもちろん、腹部超音波検査でもある程度見つけることができます。


しかし、膵がんそのもの(直接所見)を見つけるのはこれらの検査では難しく、超音波内視鏡検査(EUS)が最も優れていました。

早期膵がんの細胞診

早期膵がんを確定診断するには、画像検査だけでなく実際にがん細胞があることを確認する検査(細胞診)が必要です。通常の膵がんでは超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)でがん細胞を採取して診断できますが、早期膵がんは腫瘍の塊が小さすぎてEUS-FNAが難しい場合があります。

今回の調査では、手術前に悪性(がん)と診断できたのは62.5%にとどまり、残り37.5%は画像所見で膵がんが強く疑われるため手術が行われました。


特にステージ0膵がんでは、内視鏡的経鼻膵管ドレナージ(ENPD)留置下での連続膵液細胞診(SPACE)が有用とされました。(膵液細胞診についてはこちら →https://miyuki-cl.com/column/膵液細胞診とは?膵上皮内がんの早期発見に期待/

早期膵がんの予後

手術後の長期成績は非常に良好で、10年後の生存率は以下の通りでした。
 
ステージ0:94.7%
ステージ1(腫瘍径10mm以下):93.8%
ステージ1(腫瘍径11〜20mm):78.9%
 
ただし、手術後も15.5%の方で残った膵臓に新たながんが発生しており、手術後も定期的な経過観察が必要です。

コメント

本研究は、日本を代表する膵がん専門施設が共同で実施した大規模調査です。それほどの専門施設であっても、早期膵がんの発見率はわずか3%と非常に低い結果でした。また、膵がん診断のスペシャリストが集まった本研究でも、手術前に膵がんと確定診断できた症例は全体の3分の2未満であり、早期膵がんの診断がいかに難しいかが改めて示されました。

一方で、早期に発見し適切に治療すれば、膵がんでも予後は非常に良好であることが本研究から明らかになりました。これは患者さんにとって希望の持てる結果です。

早期膵がんを見つけるためには、膵臓のわずかな変化(膵管の拡張や膵嚢胞など)を見逃さず、精密検査を受けることが重要です。特に膵がんの家族歴や膵嚢胞の既往がある方は、定期的な画像検査(腹部超音波、MRI、超音波内視鏡など)を受けることで、発見の可能性が高まります。

当院の膵がんドックでの早期発見サポート

当院では、腹部MRI(MRCP)と超音波内視鏡(EUS)を組み合わせた膵がんドックを行っています。これにより、通常の健診や人間ドックでは見逃されやすいごく早期の膵がんや、その前段階の異常を発見できる可能性が高まります。

▶ 詳しくはこちら → https://miyuki-cl.com/medical/medical03/

膵がんは「症状が出る前に見つける」ことが何よりも重要です。気になる方は、ぜひ一度ご相談ください。

参考文献

Kanno A, et al. Pancreatology.2018;18:61-67.

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