消化器内科・内視鏡科
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院長コラム
COLUMN
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目次
「胃にポリープがある」と言われたら、多くの方が不安を感じるのではないでしょうか。
胃のポリープにはいくつか種類がありますが、その多くは特に問題ないポリープです。
しかし中には注意が必要なタイプもあります。
今回は、日常診療でよく遭遇する「胃底腺ポリープ」と、比較的珍しい「ラズベリー様腺窩上皮型胃腫瘍」について、実際の症例をもとにご紹介します。
50代女性の方です。
上腹部痛があり、当院を受診されました。
3年前に他院で胃カメラを受け、胃にポリープがあると言われたそうです。
当院で胃カメラを行ったところ、胃の粘膜は健康的でピロリ菌感染の痕跡はありませんでした。
検査では数多くの胃底腺ポリープが数多くありました。
しかし1個だけ、仲間外れのポリープがありました。
他のポリープとくらべて、赤みの強いポリープです。
水中で観察しますと、「ラズベリー」のような特徴的な形態をしています。
生検でGroup 3(良性腫瘍)と結果が出ましたが、慎重を期して大学病院で内視鏡的に切除していただきました。
最終診断は腺窩上皮型胃腫瘍で、悪性所見はありませんでした。
胃底腺ポリープは、一般的にピロリ菌に感染していないキレイな胃に発生します。
大きさは数mm程度で、胃の粘膜と同じような色調で、複数個存在することがあります。
逆流性食道炎の治療に使用される制酸剤(プロトンポンプ阻害剤など)を長期に服用していると、胃底腺ポリープが大きくなったり、数が増えたりすることがあります。
がん化する危険性はきわめて低いとされています。
ラズベリー様腺窩上皮型胃腫瘍とは、2019年に日本から報告された比較的新しい胃腫瘍での一種です。
この腫瘍は、ピロリ菌に感染していない胃に発生しやすく、鮮やかな赤色調を呈し、ラズベリー様の形態をしているのが特徴です。
当初は非常に稀な腫瘍とされていましたが、近年は内視鏡医の間での認知度が高まり、診断例も増加しています。
実際に当院でもすでに10例以上の症例を診断しています。
以下は当院で経験したラズベリー様腺窩上皮型胃腫瘍の一部です。
この腫瘍が「がん」なのかは、明確な結論は出ていません(Q and Aを参照してください)。
しかし、診断がついた場合には、内視鏡的な切除が勧められています。
これにより、組織学的な確定診断が可能になるとともに、将来的な悪性化のリスクを回避することができます。
A・典型的な胃底腺ポリープの場合には、生検や切除をする必要はありません。
胃底腺ポリープは良性のポリープで、がん化することは非常に稀です。
そのため、内視鏡で典型的な胃底腺ポリープの特徴が見られる場合には、生検や治療をする必要はありません。
ただし、以下の様な場合には、念のため生検が必要なことがあります:
A・自己判断で中止するのではなく、まずは担当医に相談してみてください。
PPIを長期に服用していると、胃にポリープができることがあります。
これはPPIによって起きる現象として知られています。
このタイプのポリープの多くは良性で、がん化することは稀です。
そのため一般的には健康上の大きな問題にはならないと考えられています。
実際にPPI治療を中止すると、時間の経過とともにポリープが小さくなったり、場合によっては消失したりすることがわかっています。
ただし、逆流性食道炎の症状コントロール目的にPPI服用が必要な場合もあるため、胃ポリープが見つかったからといって自己判断で中止することはお勧めできません。
PPIの中止により症状が再発・悪化するリスクがあります。
PPIを継続するメリットとデメリット、他の治療法などについて、主治医によく相談してください。
また定期的な胃カメラで、ポリープの状態を確認することも重要です。
A・現時点では、良性に近い腫瘍と考えられていることが多いです。
ラズベリー様腺窩上皮型胃腫瘍が初めて報告された当初は、「胃がん」の一種として分類されていました。
しかし、その後の症例の蓄積と研究により、この腫瘍が本当に「がん」なのかという意見が専門家からも出ています。
実際、私の知っている著名な教授は、「がん」という表現を使いません。
現在の医学的見解では、ラズベリー様腺窩上皮型胃腫瘍は比較的おとなしい経過をたどる良性に近い腫瘍と考えられています。
ただし、長期的な自然経過についてはまだ十分な知見が得られておらず、また内視鏡的に安全に切除できることから、発見された場合には治療することが勧められています。
<参考文献>
柴垣 広太郎、他.消化器内視鏡 2022;34:235-41.
今枝 博之、他.消化器内視鏡 2024;36:242-9.
Shibagaki K, et al. Endosc Int Open 2019; 07(06): E784-E791
Shibagaki K, et al. Dig Endosc 2025.
注:「今月の1例」は、今月に内視鏡を行なった症例とは限りません。過去の症例も含まれます。