2026年1月30日
はじめに
近年、画像診断技術の進歩や人間ドック・健診の普及により、膵臓に“のう胞”が見つかる方が増えてきています。膵臓にのう胞をきたす病気は様々ですが、その中でも最も多いのが、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)です。特に、膵管の枝に発生する分枝型IPMNは、日常診療で最もよく遭遇するタイプとされています。
当クリニックでも、分枝型IPMNの患者さんを長期にわたって経過観察していますが、診察の中でしばしば次のようなご質問をいただきます。
「この膵のう胞は、いつまで経過をみる必要があるのでしょうか?」
IPMNは多くの場合、すぐに治療が必要な病気ではありませんが、将来的に膵がんが発生する可能性があることから、経過観察の考え方がとても重要になります。
本コラムでは、「膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は、いつまで経過観察すべきなのか」について、分かりやすく解説します。

なぜIPMNは長期間の経過観察が必要なのか?
IPMNが問題となる最大の理由は、膵がんとの関係です。
これまでのコラムでも繰り返し説明したように、IPMNは
・のう胞自体ががん化する場合(IPMN由来膵がん)
・のう胞とは別の場所に膵がんが(IPMN併存膵がん)
の2つのパターンがあることが分かっています。👉 関連コラムはこちらhttps://miyuki-cl.com/column/膵管内乳頭粘液性腫瘍(ipmn)と膵がんの関係とは/

日本人を対象にした最近の研究では、IPMNのある方における膵がんの発生率は、1年間に約0.6〜0.7%と報告されています(1000人のうち6〜7人)。決して極端に高い数字ではありませんが、IPMNのない方と比べると明らかに高い発生率といえます。👉 関連コラムはこちらhttps://miyuki-cl.com/column/論文紹介:日本における分枝型膵管内乳頭粘液性/
さらに、東京大学で行われた1404人の分枝型IPMN患者さんを対象にした研究では、膵がんの累積発生率が5年で3.3%、10年で6.6%、15年で15.0%、と時間の経過とともに着実に上昇していました。この結果から分かるのは、
「5年間、特に変化なかったからもう安心」
「そろそろ経過観察をやめても大丈夫」
とは言い切れない、ということです。
一方で、
「定期的に調べなくても、症状が出てから検査すれば十分では?」
と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし膵がんは、腹痛や背部痛、体重減少といった症状がでた時点では、すでに進行しており、根治手術が難しい状態になっていることが少なくありません。
IPMNの経過観察の最も重要な目的は、
👉 症状が出る前の、できるだけ早い段階で膵がんを見つけること
です。
実際に、IPMNの経過観察中に発見された膵がんは、偶然に見つかった膵がんと比べて予後が良いことが知られています。これは、IPMNに関連する膵がんの性質の違いも影響している可能性はありますが、定期的に画像検査を行なっていたことが最大の理由と考えられます。
IPMNはいつまで経過観察を続けるべきか?
結論から言うと、「原則として、元気で検査が受けられる限り、経過観察を続けることが望ましい」、と考えられています。
その理由は、IPMNに関連する膵がんのリスクが、時間が経ってもゼロにならないからです。前述した研究でも示されているように、膵がんの発生率は5年、10年、15年と年数とともに上昇していきます。
「何年も変化がない=もう安心」ではない
IPMNの経過をみてみると、
・何年も大きさが変わらない
・壁の厚みや結節も出てこない
・自覚症状もない
といった状態が長く続くことは珍しくありません。しかし、それでもある時期を境に膵がんが発生するケースがあることが分かっています。
そのため、
「長年変化がないから、もう検査は不要」
と一律に判断することはできません。
年齢や体調の応じた“現実的な判断”も大切

一方で、すべての方に一生同じペースで検査を続けるべき、というわけでもありません。
たとえば高齢になり、
✔️ 他の持病も多い
✔️ 手術や抗がん剤治療が現実的ではない
✔️ 検査そのものが大きな負担になる
といった場合には、
「もし膵がんが見つかった場合に、治療を受ける意欲・体力があるか」
を踏まえて、経過観察の間隔を延ばしたり、終了を検討したりすることもあります。
経過観察の究極の目的は、「がんを見つけるため」ではなく「命を守るため」
IPMNのフォローアップは、単に膵がんを探すことが目的ではありません。治療が可能な段階で見つけ、結果としてその方の命を守ることが目的です。
そのため当院では、
◆ IPMNの大きさや性状
◆ 膵管の太さ
◆ 年齢
◆ 全身状態
◆ 膵がんの危険因子(家族歴、糖尿病、脂肪膵など)
などを総合的に考え、一人ひとりに合った経過観察の方針を提案しています。
まとめ
IPMNの経過観察は「何年たったから終わり」ではありません。年齢や体調、膵がんのリスクなどを踏まえ、その方にあった形で継続することが大切です。
不安なことや迷うことがあれば、遠慮せずに主治医にご相談ください。
参考文献
Oyama H, et al. Gastroenterology 2020;158:226-37.
Ohtsuka T, et al. Pancreatology 2024;24:1141-51.
Ohtsuka T, et al. Pancreatology 2024;24:255-70.
大山 博生, 他.膵臓 2022;37:137-41.
*本コラムの内容は、2026年1月28日現在の医学的見解に基づいています。