なぜ超音波内視鏡検査(EUS)は習得が難しいのか?|みゆき消化器内視鏡クリニック|多摩市永山の消化器内科・内視鏡検査

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MRIと超音波内視鏡による膵がんドック

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なぜ超音波内視鏡検査(EUS)は習得が難しいのか?

なぜ超音波内視鏡検査(EUS)は習得が難しいのか?|みゆき消化器内視鏡クリニック|多摩市永山の消化器内科・内視鏡検査

2026年2月11日

はじめに

超音波内視鏡検査(EUS)は、先端に超音波(エコー)装置のついた内視鏡を口から挿入し、胃や十二指腸の内側から、その外側にある膵臓や胆のう、胆管などを詳しく観察する検査です。

特に膵臓に関しては、EUSはリアルタイムかつ高解像度の画像を得ることができるため、CTやMRIなどの画像検査では見つけにくい、ごく小さな腫瘍や病変を発見できる可能性があります。

このためEUSは、膵がんの早期発見において非常に重要な検査であり、「膵がん診断の切り札」と表現されることもあります。

一方で、EUSは胃カメラや大腸カメラと比べると、まだ広く普及している検査ではありません。実際にEUS検査を受けようとすると、膵臓疾患を専門としている大学病院や総合病院を紹介されるケースがほとんどです。当院のように、クリニックという身近な医療機関でEUSを実施している施設は、全国的にも非常に限られています。

それでは、膵がんにこれほど有用とされているEUSが、なぜ広く行われていないのでしょうか。

本コラムでは、**「EUSはなぜ習得が難しいのか」**という視点から、その理由を分かりやすく解説していきます。

EUSが難しい理由① 見ている世界が「胃カメラ・大腸カメラ」とまったく違う

胃カメラや大腸カメラは、消化管の内側を直接“目で見て”診断する検査です。

たとえば、壁や天井、床が真っ白な部屋を想像してください。その床の上に、赤いボールがおいてあります。あなたがその部屋に入れば、赤いボールにすぐ気がつくでしょう。

ここで、

あなた=内視鏡

部屋=胃または大腸

赤いボール=病変

と置き換えてみて下さい。

あなた(内視鏡)が部屋(胃または大腸)の中に入れさえすれば、たとえ医学的教育がなくても赤いボール(病変)がそこにあることは認識できます。

一方で、EUSはまったく異なる検査です。

EUSは、今いる部屋(=胃)の中から隣の部屋(=膵臓)にあるボール(=病気)を探す検査です。当然ながら隣の部屋のボールは見えません。

そのため、部屋の壁や床に超音波を当てて、壁の向こう側にあるボールを探す必要があります。ここに、EUS特有の難しさがあります。

困難点① 内視鏡画像と超音波画像はまったく異なる

胃カメラや大腸カメラで見えている画像は、肉眼で見ているものに近い画像です。近年は画質も非常に向上しており、直感的に「何が写っているのか」を理解できます。たとえば、大腸ポリープの写真をお見せすれば、一般の方でも、「ここに何かある」と分かるでしょう。

     *大腸ポリープ(上皮内がん)の写真です。

一方、EUSで得られる画像は、超音波信号をもとに特殊な処理で作られた画像です。実際の見た目とは大きく異なるため、医師であっても、見慣れていなければ何が写っているのか判断できません。

  *ステージ0膵がんの写真です。EUSの経験がないと、何が見えているのか分からないでしょう。

つまりEUSでは、「画像を見る力」そのものを一から身につける必要があります。

困難点② 見たい臓器がどこにあるのか分からない。

先ほど、EUSは「今いる部屋から隣の部屋を見る検査」とお話ししました。しかし慣れていないうちには、そもそも隣の部屋がどこにあるのかが分かりません。そのため初心者の段階では、膵臓(=隣の部屋)そのものを見つけること自体が難しいのです。

アメリカ留学時代の上司であるKenneth Chang教授は、EUSを始めたばかりの頃、膵臓を見つけるのに2時間(!)かかったというエピソードを教えてくれました(2時間も粘るのが彼らしいですが・・・)。これは決して特別な話ではなく、EUSがいかに経験を要する検査であるかを象徴するエピソードです。

EUSが難しい理由② 内視鏡の操作そのものが非常に繊細で難しい

EUSでは、内視鏡をわずか数ミリ動かすだけで、見えている超音波画像が大きく変わります。
少し角度がずれるだけで、


 ・見えていた臓器が消えてしまう
 ・どこを見ているのか分からなくなる


といったことが頻繁に起こります。


私は現在も大学病院で若手の先生にEUSの指導を行っていますが、「やっと膵臓が見えてきた」と思った次の瞬間に、内視鏡を少し動かしただけで膵臓が見えなくなってしまう場面をよく目にします。
さらに内視鏡を動かして懸命に膵臓を探しているうちに、


「今、自分はどこにいて、何を見ているのか分からない」


いわゆる「迷子の状態」に陥ってしまうことも少なくありません。
胃カメラや大腸カメラでは、ある程度「前に進めば奥が見える」「引けば戻る」という直感的な操作が可能です。
しかしEUSでは、


 ・内視鏡の位置
 ・先端の角度
 ・超音波を当てる方向


を同時に微調整しなければなりません。
たとえるなら、暗い部屋の中で、懐中電灯をほんのわずかな角度で動かしながら、壁の向こう側の物体を探すような作業です。

この繊細な操作を安定して行えるようになるまでには、どうしても多くの時間と経験が必要になります。

EUSが難しい理由③ 「経験の差」がそのまま診断の差につながる

EUSは、経験を積めば積むほど診断力が向上する検査です。
経験を重ねることで、


 ・正常な膵臓の「いつもの見え方」が分かる
 ・微妙な模様や形の違いに気づける
 ・「何となくおかしい」という違和感を察知できる


ようになります。


逆に言えば、経験が少ない段階では、異常と正常の区別が非常に難しい検査でもあります。
その区別ができるようになるには、「病変」だけを見るのではなく、「正常な膵臓」も数多く観察することが欠かせません。


私が留学中、上司であったJohn Lee教授に、
「EUSをある程度マスターするのに何例くらい必要と思いますか?」
と質問したことがあります。
その際に返ってきた答えは、「1,000例」でした。
この数値に明確な根拠があるかは分かりません。しかし、膵臓を隅々まで観察し、的確に病変を見つけ、正しく診断するためには、それだけ地道な経験の積み重ねが必要だ、という意味だと思います。
ちなみにLee教授は、通常のEUS検査をわずか5分程度で終えてしまうため、日本人留学生の間では密かに「高速EUS」と呼ばれていいました。
 
EUSは、「誰が行っても同じ結果になる検査」ではありません。検査を行う医師の経験と理解度が、結果に大きく影響する検査であるといえます。

おわりに

今回、EUSの難しさについて解説してきました。その中で胃カメラと大腸カメラと比較しましたが、これらの検査が「簡単」であるということを言いたい訳では決してありません。

胃カメラで微小胃がんを見つけるのは決して容易ではなく、十分なトレーニングと豊富な経験が必要です。

また大腸カメラを患者さんにできるだけ苦痛を与えずにスムースに挿入し、小さな前がん病変を見つけ、適切に治療できるようになるためには、継続した修練が欠かせません。

私自身も、よりスムーズに胃カメラと大腸カメラを行い、小さな変化を見逃さずに、的確に病変を指摘できる内視鏡医であり続けるために、日々、学びを重ねています。

EUSがいまだ十分に普及していない理由の一つとして、その「とっつきにくさ」や技術的な難しさがあると考えられます。しかし一方で、膵がんの早期診断にはEUSが不可欠です。

今後は、患者さんのニーズに応じて、

「必要な時に」「必要な場所で」「気軽に」

EUSを受けられる環境を整えていくことが重要だと考えています。そのためには、EUSを安全かつ的確に行える医師を増やしていくことが不可欠です。

現在、私は大学病院で若手医師のEUS指導を行っています。

近年では、質の高いEUSの教科書が出版され、動画で学ぶ環境も整ってきました。またEUS機器も向上し、画像が非常に鮮明になりました。その点で、私がEUSを始めた頃とは、教育環境が大きく変わってきています。

また実際に一緒にEUSを行っている若い先生たちは、手技が器用でセンスもあり、私が同年代の頃よりも上達が早いのではないかと、感心することが少なくありません。

10年前、Lee先生は「EUSをマスターするのに1,000例」と話していました。しかし、現在の若い先生たちを見ていると、それよりも早い段階で習得できる時代になってきているのではないかと、期待を込めて感じています。

          UCアーバインメディカルセンター John Lee教授

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