2023年11月12日
はじめに
ヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)は、胃のなかにいる細菌で、慢性胃炎や胃十二指腸潰瘍、そして胃がんの原因として重要です。
ピロリ菌の除菌により、慢性胃炎の進行や胃十二指腸潰瘍の再発を抑えることができます。
さらにピロリ菌を除菌することで、胃がんの発症を抑制できることが明らかになっています(注※ただし、除菌しても胃がんのリスクがゼロになるわけではありません。最近では「ピロリ菌除菌後胃がん」も注目されています)。👉 ピロリ菌除菌後胃がんについてはこちらhttps://miyuki-cl.com/column/今月の1例:ピロリ菌除菌後の胃がん/
このため、日本ヘリコバクター学会では胃がん予防のために、ピロリ菌の除菌治療を推奨しています。
ピロリ菌の治療
ピロリ菌の治療は、胃酸を抑える薬(タケキャブ)と2種類の抗生剤を1週間内服するだけです。
この「一次除菌療法」で、約90%以上の方が除菌に成功します。
しかし、残りの約10%は1回の治療で除菌できません。
その主な理由は、ピロリ菌の一部がクラリスロマイシン(抗生剤)に耐性をもつ菌だからです。
クラリスロマイシン耐性ピロリ菌とは?
それでは、なぜ1回の治療(一次除菌療法)で、すべてのピロリ菌を消すことができないのでしょうか?
その最大の理由は、ピロリ菌が治療薬の1つであるクラリスロマイシンに対して抵抗性があるためです(クラリスロマイシン耐性菌)。
クラリスロマイシンの治療効果のあるピロリ菌(クラリスロマイシン感受性菌)と抵抗性のあるピロリ菌(クラリスロマイシン耐性菌)で、一次除菌療法の除菌成功率を比較したところ、
クラリスロマイシン感受性菌:97.6%
クラリスロマイシン耐性菌:82.0%
とクラリスロマイシン耐性菌で低い除菌率でした。
治療前に「効く薬」を調べる ― 薬剤感受性検査
除菌の成功率を上げるためには、治療前にピロリ菌がどの抗生剤に効くかを調べることが大切です。
従来は、胃カメラで胃の組織を採取して培養し、薬剤の効き方を調べる「薬剤感受性試験」を行っていました。
ただし、結果が出るまでに1〜2週間かかること、検査に生検が必要なことが課題でした。
新しいピロリ菌の検査法
2022年11月から保険適用となったピロリ菌PCR検査では、胃カメラで採取した胃液を用いて遺伝子レベルでピロリ菌と耐性の有無を調べることができます。
🔹検査時間はわずか約50分
🔹胃カメラ後に院内で結果がわかる
🔹クラリスロマイシン耐性の有無も同時に判定
当院では、**全自動遺伝子解析装置「Smart Gene」**を導入し、迅速かつ正確なピロリ菌PCR検査を実施しています。


ピロリ菌のテーラーメイド治療とは?
PCR検査で「クラリスロマイシンが効く菌」と判明した場合には、
➡ タケキャブ+ペニシリン+クラリスロマイシン(3剤併用)で治療を行います。
一方で、「クラリスロマイシンが効かない菌(耐性菌)」の場合は、
➡ クラリスロマイシンを除き、2剤(タケキャブ+ペニシリン)だけで除菌します。
研究では、耐性菌に対して
🔹3剤併用:除菌率 76.2%
🔹2剤併用:除菌率 92.3%
と報告されており、菌の性質に合わせた“テーラーメイド治療”がより高い効果を発揮します。
まとめ
ピロリ菌は胃がんの発症に関わる重要な細菌ですが、適切な検査と治療を行えば除菌が可能です。
従来の「一律の治療」から、あなたのピロリ菌に合ったオーダーメイド治療へと進化しています。
当院では、最新のPCR検査による迅速で正確なピロリ菌診断と、結果に基づく最適な除菌治療を提供しています。
胃炎・胃潰瘍・胃がん予防の第一歩として、ぜひ一度ご相談ください。
参考文献
Suzuki S, et al. Gut 2020;69:1019-26.