2026年10月15日
がんは日本人の死因の第1位であり、私たちにとって身近な病気です(厚生労働省「2024年人口動態統計」)。
「自分にがんがあるのかどうか、知りたい」。
そうした思いから、血液や尿などを使って手軽に受けられるがん検査に関心をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
当院にも、こうした検査で「数値が高い」「がんのリスクが高い」と指摘され、不安を抱えて受診される方が少なくありません。
検査の広告や紹介記事では、「感度90%以上」といった数字を目にします。しかし、この数字が何を意味するのかは、必ずしも十分に伝わっていないように感じます。
「感度90%」と聞いて、
「陽性なら、90%の確率でがんがある」
「陰性なら、90%の確率でがんではない」
と受け取ってしまうかもしれません。
しかし、感度90%という数字は、どちらの意味でもありません。
また、「がんのある人をどれだけ見つけられるか」と、「陽性と判定された人に実際にがんがある確率」は、別のものです。
後者は「陽性的中率」と呼ばれ、検査結果を受け止めるうえで大切な指標です。
本コラムでは、「感度」と「陽性的中率」の違いを、具体的な例を交えながら、なるべく分かりやすく解説します。
検査を受ける前に、そのメリットと限界を知り、結果を受け取ったときに必要以上に不安になったり、安心しすぎたりせず、適切な行動につなげるための参考になれば幸いです。
※本コラムは、特定の検査を推奨・否定するものではなく、がん検査の結果の読み方をお伝えするものです。
感度と特異度とは?
がん検査の「感度」とは、がんの人を正しく陽性と判定できる割合です。
例えば、感度90%の検査では、実際にがんのある100人のうち、90人を陽性と判定されます。
一方、残りの10人は、がんがあるにもかかわらず、この検査では陰性と判定されます。これを「偽陰性」と言います。
つまり、「感度90%」とは、「陽性ならば90%の確率でがんがある」という意味ではありません。
一方、感度ともに検査の性能を表す指標が「特異度」です。
特異度とは、がんのない人を、正しく「陰性」と判定できる割合です。
例えば、特異度95%の検査では、がんのない100人のうち、95%が陰性と判定されます。
逆に残りの5人は、がんがないにもかかわらず陽性と判定されます。これを「偽陽性」といいます。
このように、検査で陽性になる人には、本当にがんがある人と、がんがないのに陽性になる人の両方が含まれます。
では、陽性と判定された人のうち、実際にがんがある人はどのくらいいるのでしょうか?
次に、この割合を表す「陽性的中率」について考えてみましょう。
陽性的中率とは?
人間ドックなどのがん検査で陽性となった方が本当に知りたいのは、「陽性だった自分に、実際にがんがある確率はどのくらいか」、ということではないでしょうか。
検査で陽性と判定された人のうち、実際にがんのある人の割合を「陽性的中率」といいます。
陽性的中率は、感度と特異度だけでは計算できません。検査を受ける集団に、もともとがんのある人がどのくらいいるかも大きく関わります。
例えば、仮に1万人が検査を受け、そのうち10人に対象となるがんがあるとします。がんのある人の割合は0.1%です。
この集団に、感度90%・特異度95%の検査を行うと、計算上は次のようになります。
・がん10人のうち、9人が陽性になります。
・がんのない9,990人のうち、約500人も陽性になります。これが「偽陽性」です。
・陽性者は合計で約509人ですがそのうち本当にがんがあるのは9人です。
したがって、陽性的中率は、
9人 ÷ 約509人 X 100=約1.8%
となります。
つまりこの例では、「感度90%の検査」であっても、陽性者100人のうち実際にがんがあるのは約2人ということになります。
※これは仕組みを説明するための仮定の例です。特定の検査の実際の成績や、あなた自身にがんがある確率を示すものではありません。
「感度」の数字を見るときの注意点
「感度が高い」と聞くと、「これは優れた検査だ」と感じるかもしれません。
確かに、がんのある人を見逃さずに拾い上げることは大切です。
しかし、感度が高いという理由だけで、優れた検査と判断することはできません。
検査の性能や結果の意味を考えるには、次の3つの視点が必要です。
がん検査を理解するための3つの視点
① 感度
がんのある人を、どれだけ正しく陽性と判定できるか
② 特異度
がんのない人を、どれだけ正しく陰性と判定できるか
③ 陽性的中率
陽性と判定された人のうち、実際にがんがある人はどのくらいいるか
ただし、陽性的中率は、検査そのものの性能だけで決まる数字ではありません。前述のとおり、検査を受ける集団に、がんのある人がどのくらいいるかによっても変わります。
感度が高くても、がんのない人まで多く陽性になれば、多くの方が不安を抱え、追加の検査を受けることになります。感度だけでなく、特異度や陽性的中率も含めて考えることが大切です。
また、広告や研究で示される感度を見るときには、次の点にも注意が必要です。
①「早期がんの感度」か、「がん全体の感度」か
検査によっては、早期がんより進行がんのほうが陽性になりやすいことがあります。
そのため、「がん全体で感度90%」でも、「早期がんを90%見つけられる」とは限りません。 早期発見を目的とするなら、早期がんに対する成績を確認する必要があります。
② どのような人を対象にした研究か
すでにがんと診断された人と、がんのない健康な人を集めて比較した研究では、実際の健診よりも良い成績が出ることがあります。
実際の健診では、まだ症状のない小さながんや、がん以外の病気がある方など、さまざまな状態の人が対象になるためです。
研究で良い成績が得られたことと、実際の健診でも同じ性能を発揮することは、分けて考える必要があります。
「感度◯%」という数字を見たら、
「早期のがんでも見つけられるのか」
「自分と同じように、症状のない人が健診で受けても役立つのか」
を確認することが大切です。
数字だけで判断せず、分からない点は医師に相談してみてください。
陰性でも安心しきらない
検査で「陰性」と判定されても、がんがないと完全に言い切れるわけではありません。感度が100%でない検査では、がんがあっても陰性になることがあります。
血便が出る、便通の変化や胸やけ・腹痛が続く、意図せず体重が減るなどの症状がある場合は、がん検査が陰性でも医療機関にご相談ください。
また、健診やがん検診で「要精密検査」と指摘された場合は、別のがん検査で陰性だったとしても、指示された精密検査を受けてください。
陽性だった場合の次のステップ
血液や尿を使うがん検査で陽性になっても、それだけでがんと診断されるわけではありません。
実際にがんがあるかどうかを確認するため、必要に応じて画像検査や内視鏡検査を行います。
CT・MRI・超音波検査などでは、臓器に異常がないか、異常があればどこにあり、どのくらいの大きさなのかを調べます。
胃カメラや大腸カメラでは粘膜を直接観察し、必要に応じて組織を採取して詳しく調べます。
血液や尿の検査が「詳しく調べるきっかけ」になるのに対し、画像検査や内視鏡検査は、異常の有無や原因を具体的に確かめる役割を担います。
ただし、陽性になった方全員に、すべての検査が必要なわけではありません。検査の種類や結果、症状、これまでの病歴などを踏まえ、医師が必要な検査を選びます。
精密検査で異常が見つからない場合も、その後の対応は状況によって異なります。追加の検査が必要か、経過を確認するかについて、医師と相談しましょう。
「陽性だからがんに違いない」と考える必要はありませんが、「偽陽性も多いから大丈夫」と自己判断せず、まずは検査結果を持って医療機関にご相談ください。
検査を受ける前に、陽性だった場合の対応も確認しましょう
がん検査は、結果を伝えるだけでは完結しません。
「陽性」「高リスク」と言われたときに、どこに相談し、どのような追加検査を受け、費用がどのくらいかかるのか。その後の道筋も大切です。
検査を提供する側には、こうした点をあらかじめ説明し、結果に応じた相談や受診につなげる体制が求められます。
また、精密検査で異常が見つからなかった場合の対応が確立していないのであれば、その限界も検査前に伝える必要があります。
おわりに
「感度90%」という数字は、その検査の特徴の一つを表しています。しかし、それだけで、陽性だったときにがんである確率や、検査を受けるメリットが分かるわけではありません。
検査を選ぶときには、見つけられる可能性だけでなく、誤って陽性となる可能性や、その後に必要となる検査・費用にも目を向けてみてください。
そして、陽性や高値という結果だけで、がんと決まったわけではありません。不安なときは一人で抱え込まず、検査結果を持って医療機関にご相談ください。