2026年4月18日
「最近、血糖値が急に悪くなった」「これまで安定していた糖尿病がコントロールしにくくなった」――このような変化の背景に、まれではありますが膵臓の病気が隠れていることがあります。
実際に、糖尿病の変化をきっかけに膵がんが見つかるケースも報告されており、早期発見のためには適切なタイミングでの画像検査が重要です。
本記事では、糖尿病と膵がんの関係を踏まえながら、どのような場合にどの検査(MRI・超音波内視鏡など)を検討すべきかを、臨床的にわかりやすく解説します。
はじめに
前回の記事(糖尿病と膵がんの関係)では、糖尿病と膵がんの関連性について考える際には、長期糖尿病と新規糖尿病に分けて考えることが重要であることをお伝えしました。
そして特に以下のような場合には、膵がんの可能性にも注意しながら検査を検討することが望ましいと考えられます。
膵がんに注意して検査を考えたいケース
- 長期糖尿病:体重減少、糖尿病の悪化
- 新規糖尿病:55歳以上、体重減少
ただし、これらの変化があっても、症状や血液検査だけで膵がんを見つけることは容易ではありません。
そのため、実際の診療では画像検査による膵臓の評価が重要となります。
それではこのような条件に当てはまる場合、どのように検査を進めていけばよいのでしょうか。
本記事では、膵がんの早期発見のために行われる画像検査の種類と考え方について、臨床的にわかりやすく解説します。
膵臓の画像検査
膵臓の評価にはさまざまな画像検査があり、それぞれに得意・不得意があります。 そのため、目的に応じて適切に組み合わせていくことが重要です。
腹部エコー
一般的に、最初に行われることが多いのは腹部エコー(超音波検査)です。 この検査は簡便で体への負担が少なく、健診や人間ドックでも広く行われています。
しかし、膵臓は胃や腸の奥に位置しているため、体の脂肪や腸管ガスの影響を受けやすく、 膵臓そのものが十分に観察できない(膵描出不良)ことも少なくありません。
この点については、腹部エコーで膵臓が見えない場合の対応でも詳しく解説しています。
このように、腹部エコーは有用な検査である一方で、膵臓の評価には限界があることも理解しておく必要があります。
MRI
そこで次に検討されることが多いのが、MRI(MRCP)です。
MRIは体の奥にある膵臓や膵管の構造を比較的安定して描出できるため、 腹部エコーでは評価が難しい場合でも、より詳細な情報が得られることがあります。
実際に、健診における膵異常の発見率を比較すると、膵頭部・体部・尾部いずれにおいても、 MRIの方が高い検出率を示したと報告されています。
このような理由から、腹部エコーで十分な評価が難しい場合や、 膵疾患が疑われる場合には、MRIによる精密検査が検討されます。
MRIでわかる膵臓の変化(膵管の異常)
MRIでは、1枚の画像で膵管の流れを評価することができ、 膵管が詰まっている部位と、それより上流の膵管が拡張している様子を視覚的に確認することができます。
またMRIは、膵がんの危険因子とされる膵嚢胞(IPMNなど)の評価にも優れており、 膵臓全体の構造を把握するのに適した検査です。
膵がんの画像所見
膵がんの多くは、膵液の通り道である膵管から発生します。 そのため、腫瘍によって膵液の流れが妨げられると、 がんより上流の膵管が拡張するという変化が起こります。
膵がんの画像所見には、 がんそのものが見える「直接所見」と、 膵管拡張や膵臓の萎縮といった「間接所見」があります。
特に小さな膵がんの場合、がんそのものは画像で確認できないこともありますが、 すでに膵管拡張などの変化が現れていることがあります。
そのため、膵管の拡張が認められた場合には、 膵がんの可能性も念頭に置いて精密検査を行うことが重要です。
MRIでも見つけにくい膵がんがある理由
各画像検査における小さな膵がんの診断能を比較すると、 間接所見である膵管拡張の検出については、エコー・CT・MRI・超音波内視鏡(EUS)で大きな差はありません。
しかし、膵管が拡張しているだけでは膵がんがあるとは限らないため、 最終的にはがんそのものを描出することが重要になります。
この点において、小さな膵がんそのものの検出率を比較すると、 超音波内視鏡(EUS)は他の画像検査よりも高い診断能を有することが知られています。
このように、膵管の変化だけでなく、がんそのものを捉えるという観点では、 検査の選択が非常に重要になります。
超音波内視鏡(EUS)とMRIの違いについて詳しく知りたい方は、 超音波内視鏡(EUS)とは?MRIやCTとの違いについて解説した記事 もご覧ください。
超音波内視鏡(EUS)
超音波内視鏡(EUS)は、あまり馴染みのない検査かもしれませんが、 簡単に言うと胃カメラの先端に超音波(エコー)がついた検査です。
内視鏡を口から挿入し、胃や十二指腸の内側から超音波を当てることで、 膵臓をすぐ近くから詳細に観察することができます。
イメージとしては、MRIが「全体を見る検査」だとすると、 EUSは膵臓を虫眼鏡で拡大して観察する検査と考えると分かりやすいかもしれません。
膵臓に非常に近い位置からリアルタイムで観察できるため、 CTやMRIでは見つけにくい小さな腫瘍でも発見できる可能性があります。
EUSで小さな膵がんが見つかるケースもあります
実際に、長期間糖尿病の治療を受けていた方で、血糖コントロールの悪化をきっかけに検査が行われ、 CTやMRIでは明らかな腫瘍が確認できなかったものの、 超音波内視鏡(EUS)によって初めて小さな膵がんが見つかるケースもあります。
このように、糖尿病の悪化や体重減少といった変化が、膵がん発見のきっかけになることがあります。
実際の症例については、 早期膵がんの症例紹介 でも詳しく解説しています。
このように、膵管拡張などの所見があるにもかかわらず、 CTやMRIで異常がはっきりしない場合には、 さらに一歩踏み込んだ検査が重要になることがあります。
超音波内視鏡(EUS)について詳しく知りたい方は、 超音波内視鏡(EUS)検査の詳細ページ もご覧ください。
まとめ
- ✔ 糖尿病と膵がんの関係は、新規糖尿病と長期糖尿病に分けて考えることが重要
- ✔ 新規糖尿病(特に中高年)や体重減少は膵がんに注意が必要
- ✔ 長期糖尿病では、血糖コントロールの悪化や体重減少が重要なサイン
- ✔ 膵がんのスクリーニングにはMRIが有用
- ✔ MRIで異常があれば、超音波内視鏡(EUS)による精密検査が早期発見につながる可能性がある
よくあるご質問(FAQ)
Q. 糖尿病が悪化したら必ず膵がんを疑うべきですか?
A. 多くの場合は生活習慣や治療の影響ですが、体重減少を伴う場合や急激な悪化の場合には、膵がんなどの可能性も考慮して検査を検討することがあります。
Q. どの検査を受ければよいのでしょうか?
A. 一般的にはMRI(MRCP)などで膵臓全体を評価し、異常が疑われる場合には超音波内視鏡(EUS)などの精密検査が検討されます。
Q. MRIで異常がなければ安心ですか?
A. 多くの場合は大きな問題はありませんが、小さな膵がんはMRIでも見つかりにくいことがあります。特に 膵管拡張 が認められる場合には、追加検査が検討されます。
Q. 超音波内視鏡(EUS)はどのような場合に必要になりますか?
A. MRIやCTで 膵管拡張 や 膵嚢胞 などの異常が認められた場合や、膵がんが疑われる場合に、より詳しく膵臓を評価する目的で行われます。
糖尿病の悪化や体重減少が気になる方へ
最近血糖値が急に悪くなった方、
これまで安定していた糖尿病がコントロールしにくくなった方は、
念のため膵臓の検査を検討してもよいかもしれません。
特に、体重減少を伴う場合や、MRIで膵管拡張や膵嚢胞などの異常を指摘された場合には、
超音波内視鏡(EUS)による精密検査が有用なことがあります。
当院では、超音波内視鏡(EUS)による精密検査や、膵がんドックを行っています。
超音波内視鏡(EUS)年間430件(2025年)・累計2000件(2026年2月時点)の検査実績をもとに診療を行っています。
監修・講演内容に基づく解説
本記事は、2024年6月6日に開催された多摩センター健康セミナー Vol.114(主催:多摩センター地区連絡協議会・多摩市医師会・多摩市)にて、 「膵がんと糖尿病の関係」をテーマに講演した内容をもとに作成しています。
また、貴重なデータおよび資料をご提供いただきました、
埼玉医科大学病院 消化器内科・肝臓内科 教授 水野 卓先生、
東京女子医科大学 消化器内科 教授 中井 陽介先生に深く感謝申し上げます。