消化器内科・内視鏡科
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院長コラム
COLUMN
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ヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)は、胃のなかにいる細菌で、慢性胃炎や胃十二指腸潰瘍、そして胃がんの原因として重要です。
ピロリ菌の除菌により、慢性胃炎の進行や胃十二指腸潰瘍の再発を抑えることができます。
さらにピロリ菌を除菌することで、胃がんの発症を抑制できることが明らかになっています(注:ピロリ菌の除菌で、胃がんの危険性が0になるわけではありません。近年、ピロリ菌除菌後の胃がんが問題となっています)。
そのため胃がん予防の観点から、ピロリ菌の除菌治療が推奨されています(日本ヘリコバクター学会)。
ピロリ菌の治療は、胃薬と抗生剤を1週間内服するだけです。
通常は、胃薬(タケキャブ)と2種類の抗生剤(ペニシリンとクラリスロマイシン)での治療が行われます(一次除菌療法)。
この一次除菌療法により、90%以上の方でピロリ菌が除菌できます。
逆に言えば、10人のうち1人(10%)は、1回の治療でピロリ菌が消えないことになります。
それでは、なぜ1回の治療(一次除菌療法)で、すべてのピロリ菌を消すことができないのでしょうか?
その最大の理由は、ピロリ菌が治療薬の1つであるクラリスロマイシンに対して抵抗性があるためです(クラリスロマイシン耐性菌)。
クラリスロマイシンの治療効果のあるピロリ菌(クラリスロマイシン感受性菌)と抵抗性のあるピロリ菌(クラリスロマイシン耐性菌)で、一次除菌療法の除菌成功率を比較したところ、
クラリスロマイシン感受性菌:97.6%
クラリスロマイシン耐性菌:82.0%
とクラリスロマイシン耐性菌で低い除菌率でした。
そのため、除菌治療前にピロリ菌にクラリスロマイシン耐性があるかを調べてから、抗生剤を選択すべきとされています(日本消化器病学会、日本ヘリコバクター学会)。
従来、クラリスロマイシン耐性を調べる検査として、薬剤感受性試験があります。
薬剤感受性試験は、胃カメラの際に胃の組織を取ってきてピロリ菌を培養する検査です。
その欠点としては、胃の組織を採取(生検)しなければならないことと、結果が出るまでに時間がかかることです(通常、1から2週間を要します)。
2022年11月に、新しいピロリ菌の検査法が保険収載されました。
これは、胃カメラで採取した胃液を使っておこなうPCR検査です。
このPCR検査で、ピロリ菌の診断のみならず、クラリスロマイシン耐性も調べることができます。
しかも検査時間はわずか50分程度で、胃カメラの後に休んでいる間に結果が出ます。
当院でも、全自動遺伝子解析装置Smart Geneを導入しており、ピロリ菌のPCR検査をおこなうことができます。
このピロリ菌のPCR検査でピロリ菌が陽性になり、しかもクラリスロマイシンに効果がある(感受性菌)と判明した場合、タケキャブと2種類の抗生剤(ペニシリンとクラリスロマイシン)の3剤による治療を行います。
一方で、クラリスロマイシンの効きが悪い菌(耐性菌)の場合、クラリスロマイシンを除いた2剤(タケキャブとペニシリン)による治療を行います。
これは、クラリスロマイシン耐性菌の場合、3剤(タケキャブ+ペニシリン+クラリスロマイシン)の除菌率が76.2%であるのに対し、2剤(タケキャブ+ペニシリン)では92.3%と高率であったという結果に基づいています。
すなわち治療前にピロリ菌の感受性を把握することで、より効率的な除菌が可能となっています。
参考文献:Suzuki S, et al. Gut 2020;69:1019-26.