消化器内科・内視鏡科
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院長コラム
COLUMN
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膵がんの患者数は年々、増加しており、それに伴い膵がんの死亡者数も増えています。
がんの種類別による死亡者数は、膵がんは男性で第4位、女性で第3位、男女合計では第4位となっています。
膵がんは、治療の難しいがん(難治性のがん)の代表格です。
膵がんの5年相対生存率(がんと診断されてから5年後の相対生存率)は、他のがんとくらべて著しく低いです。
それでは、なぜ膵がんは難治性なのでしょうか。
1. 早期発見が難しい
膵がんを完全に治す治療法としては、外科的な切除(手術)しかありません。
しかし膵がんを早期に発見することが難しく、切除が可能な例は15〜20%とされています。
また膵がんはステージ0から4に分けられ、他のがんと同様にステージが低いほど、生存率が高くなります。
長期の生存が期待できるステージ0や1の膵がんは、2%程度(50人に1人)と少ないのが実情です。
膵がんの早期発見が難しい理由として、初期の小さな膵がんは症状に乏しいことがあげられます。
日本の14施設から集められたステージ0と1の膵がん200例のうち、何らかの症状があったのは50例(25%)のみでした。
膵がんの症状として、上腹部痛(みぞおちのあたりの痛み)や腹部膨満感(おなかの張り)、背中や腰の痛み、黄疸、体重減少、などがあります。
このような症状が出てきたときには、すでにがんは大きくなっている可能性があります。
すなわち何らかの症状が出る前に膵がんを見つけられれば、手術をすることで長期の生存が期待できるかもしれません。
通常の健診や人間ドックでおこなわれる膵臓の画像検査としては、腹部超音波(エコー)検査があります。
この検査は、簡単に苦痛なく受けられるという利点があります。
しかし腹部超音波検査で初期の小さな膵がんを発見するのは、なかなか難しいのが実情です。
それどころか、腹部超音波検査で膵臓そのものが見えないこともあるのです(人間ドックの結果表の腹部超音波検査の欄に、「膵尾部描出不良(注:膵臓の尾部側が見えていない)」、と記載されていることは、決して珍しくありません)。
それでは、別の画像検査ならばどうでしょうか。
膵臓の精密検査としては、腹部CT、腹部MRI(MRCP)、超音波内視鏡(EUS)、があります。
これらの検査は、早期の膵がんを発見するのに有用とされています。
しかし費用対効果の点から、通常の健診でこれらの検査をするのは、現実的ではありません。
最近では、膵がんの危険因子を有する人(膵がんの高危険群)を対象として、MRCPやEUSなどをおこなうことで、ステージ0や1の膵がんが発見されています。
2. 膵臓周囲にひろがったり、遠隔転移したりしやすい
膵臓は、胃と背骨の間にある、長さ15cmほどの臓器です。
膵臓は、幅が3cm、厚さが2cmほどしかないので、がんが膵臓の外側に出やすいのです。
膵臓の周りには、大事な血管や神経があり、がんが膵臓の外にひろがると、これらの血管や神経にがんが入り込んでしまいます。
また膵がんは、肝臓や腹膜などの臓器に転移しやすい性質があります(遠隔転移)。
膵がんと診断された時点で遠隔転移が見つかった場合、膵がんのステージはもっとも進んだステージ4と判断され、残念ながら手術の選択肢はなくなります。
3. 手術しても再発しやすい
膵がんは、たとえ手術しても高率に再発するという特徴があります。
再発の多くは手術後2年以内におきます。
再発する部位は、切除した部位の周辺(局所再発、といいます)や、肝臓、肺、腹膜、などがあります。
手術後の生存率を向上させるためには、この再発を防ぐことが不可欠です。
近年では、手術前または手術後に抗がん剤を使用することにより、再発を予防できる可能性があることが示されています。
4. 有効な抗がん剤が少ない
20世紀後半までは、膵がんに有効な抗がん剤はありませんでした。
1990年後半にゲムシタビン塩酸塩(ジェムザール)が登場し、従来の抗がん剤を上回る症状緩和効果と延命効果を示しました。
日本では、2001年より膵がんに対してジェムザールは使用可能となり、膵がんの第一選択薬となりました。
ただこの薬だけで、膵がんを完全に治すことは困難でした。
しかし2010年代になって、複数の抗がん剤の組み合わせによる治療法(FOLINOX療法)や新しい抗がん剤の承認により、膵がんの治療成績は確実に良くなってきています。