消化器内科・内視鏡科みゆきクリニック

       

院長コラム

COLUMN

今月の1例:早期膵がん

80代の男性の方です。糖尿病で他院通院中です。

 

他院にてスクリーニングの腹部CTを行ったところ、膵臓の萎縮と膵管の拡張を認めました。

 

 

腹部MRI(MRCP)では、膵管が尾部で細くなっており(狭窄)、狭窄部よりも尾側の膵管は拡張しています。

 

 

 

 

腹部CT、MRIともに、膵臓に明らかな腫瘤を指摘できませんでしたが、超音波内視鏡検査目的に当院を紹介受診されました。

 

超音波内視鏡検査を行ったところ、膵尾部の膵管が細くなっているあたりに、淡い低エコー領域を認めました(大きさ6X8mm)。

 

 

 

この所見から膵がんが疑われるため、さらなる精密検査として内視鏡的膵管造影および膵液細胞診を勧めました。

 

内視鏡的膵管造影では、主膵管が尾部で途絶しており、それより尾側の膵管は描出されませんでした。

 

                            

 

膵管造影に引き続いて、膵管内に細いチューブを留置し、数日間、膵液を採取しました(連続膵液細胞診;SPACE)。

 

 

採取した膵液の細胞診でがん細胞が認められたため、手術となりました。

切除した膵臓の病理検査では、大きさ3mmの膵がんでした(膵がんのステージIa)。

 

 

 

<早期膵がん>

 

一般的に、「早期がん」とは、治療後に再発の危険性が低く、5年生存率が90%以上のがんを指します。

胃がんと大腸がんでは、上記に該当するようながんを「早期がん」として定義されています。

一方で、膵がんには「早期がん」の厳密な定義がありません。

その理由の1つとして、「5年生存率が90%以上」の膵がんの頻度がとても少なく、その特徴がよく分からなかったことがあげられます。

しかし日本膵臓学会による調査では、膵がんの大きさが10mm以下でリンパ節転移や遠隔転移がない場合、5年生存率は約80%と報告されました。

さらに日本の14施設でステージ0と1の計200例をまとめたデータによりますと、大きさが9mm以下の膵がんの10年生存率は90%をこえていました。

このことから、大きさが9mm以下リンパ節や遠隔臓器への転移のない膵がんは、「早期膵がん」となりえる可能性があります。

ただ残念ながら、大きさが10mm以下で発見される膵がんは、全体の5%にも満たないとされています。

10mm以下の小さな膵がんを発見するのは、とても難しいです。

 

1. 早期膵がんの症状

 

ステージ0または1の早期の段階で発見される膵がんの多くは、自覚症状がありません。

 

 

また腹痛や背部痛などの症状があっても、他の病気の症状と似ており、初期の段階で膵がんを疑うことは難しいです(https://miyuki-cl.com/blog/膵がんの症状②:上腹部痛/

早期膵がんの多くは、「今月の1例」のように、たまたま行った画像検査をきっかけに発見されます。

 

2. 早期膵がんの診断

 

① 血液検査

 

膵臓の血液検査としては、膵酵素(アミラーゼやリパーゼなど)と腫瘍マーカー(CEA、CA19-9など)があります。

しかし膵がんが小さいうちは、いずれも異常値となることは少ないです。

また膵がんで腫瘍マーカーが高い場合は、すでに進行している可能性があります。

現在のところ、早期膵がんの診断に有用な血液検査はなく、その診断は画像検査が主体となります。

 

②  画像検査

 

膵がんは膵管から発生するため、目で見えるような腫瘤になる前に、膵管に変化をきたします。

具体的な変化としては、がんのあるところでの「膵管の狭窄(細くなる)」と狭窄部よりも尾側(上流)の「膵管拡張」です。

 

 

 

画像検査では「膵管拡張」を認識しやすく、早期膵がん発見のポイントとしては、この「膵管拡張」を見逃さずに精密検査をすることです。

膵臓の画像検査としては、腹部超音波、CT、MRI、超音波内視鏡、そして内視鏡的膵管造影などがあります。

腹部超音波、CT、MRI検査は膵管拡張を捉えるのに有用ですが、早期膵がんの場合、がん自体を認識するのは困難なことがあります。

これらの画像検査で膵がんそのものが見えないからといって、早期膵がんを否定できません。

一方、超音波内視鏡検査は腫瘤の発見に優れており、CTやMRIで見えないような小さな腫瘤でも認識することが可能です。

また後述するように、超音波内視鏡検査で腫瘤を認めた場合、針を刺して確定診断をつけることができます。

さらに近年、超音波内視鏡検査で膵管の狭窄部位付近に低エコーな部分を認めた場合、超早期の膵がん(ステージ0)の可能性があり、内視鏡的膵管造影検査および膵液細胞診を行うべきとされています。

 

③ 細胞診検査

 

各種画像検査で早期膵がんが疑われても、細胞診によるがんの確定診断が付かなければ、外科的手術に踏みきるのはためらわれます。

特に膵臓の頭の部分(膵頭部)の手術は、お腹の手術の中でもっとも大きな手術であり、「大変な手術をしたけれど、がんはなかった」、というのは可能な限り避けたいです。

膵がんの細胞診検査としては、超音波内視鏡ガイド下穿刺細胞診(EUS-FNA)と膵液細胞診があります。

EUS-FNAは、超音波内視鏡検査で観察しながら膵臓の腫瘍を細い針で刺して、細胞を採取する方法です。

 

 

膵がんの確定診断に非常に有用な検査で、また安全性も高いです。

しかし超音波内視鏡検査で腫瘍が見えなければ、細胞を採取することはできません。

一方、膵液細胞診は、内視鏡と透視(レントゲン)で見ながら、膵管に細いチューブを入れて膵液を採取して調べる検査です。

特に膵臓に腫瘤がなく、がんが膵管にとどまっている超早期のがん(ステージ0)の診断に有用です。

ただし、この検査は、検査後に急性膵炎を起こすリスクがあります(〜10%の頻度)。

急性膵炎は重症化すると死亡する危険性があり、その適応は慎重でなければなりません。

通常は、手術を決める上で膵液細胞診しか方法がない、という場合に行われます。

 

 

 

<参考文献>

膵癌診療ガイドライン改訂委員会編.膵癌診療ガイドライン2022年版.金原出版.

Egawa S, et al. Pancreas 2012; 41:985-92.

Kanno A, et al. Pancreatology 2018; 18:61-7.

Izumi Y, et al. Endosc Int Open 2019; 7:E585-93.

注:「今月の1例」は、今月に内視鏡を行なった症例とは限りません。過去の症例も含まれます。

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