消化器内科・内視鏡科
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院長コラム
COLUMN
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70代の男性の方です。
5年前に、他院で胃がんの内視鏡的治療を受けています。その際に、ピロリ菌を除菌しました。
その後は、他院で年1回胃カメラを受けていましたが、慢性胃炎以外の異常は指摘されなかったようです。
今回、当院での初回胃カメラを受けました。
胃体部に胃がん治療後の跡が見られます。
胃角部には、周囲よりやや赤く凹んでいる(陥凹)部位を認めました。生検をしたところ、胃がんと診断されました。
早期の胃がんで内視鏡的治療が可能と判断し、大学病院にて内視鏡的に切除していただきました。
最終診断は大きさ6X5mmの早期胃がんで、完全に取りきれていました。
今後は年に1回の胃カメラで経過を観察する予定です。
<ピロリ菌除菌後の胃がん>
ピロリ菌は、胃がんの原因として最も重要です。
ピロリ菌を除菌することで、胃がんが発生する危険性は明らかに下がります。
そのためピロリ菌がいる方は、除菌治療を受けることが推奨されています。
2013年にピロリ菌の除菌治療の保険適応が広がったことにより、より多くの方々が除菌治療を受けられるようになりました。
しかしピロリ菌がいなくなっても、胃がんのリスクがゼロになるわけではありません。
以前はピロリ菌除菌後の胃がんについて不明な点も多く、またあまり関心も向けられていませんでした。
当時はピロリ菌の除菌に成功したら、担当医からその後の胃カメラのフォローの話もないことも少なくありませんでした。
その後、ピロリ菌除菌後に胃がんが発見される機会が増えるようになり、近年の内視鏡トピックの1つが、この「ピロリ菌除菌後胃がん」です。
当院で発見したピロリ菌除菌後胃がんを3例提示します。
<80代男性>
5年前にピロリ菌除菌。内視鏡的に治療できました(大きさ10X11mm)。
<60代男性>
10年以上前にピロリ菌除菌。内視鏡的に治療できました(大きさ14X5mm)。
<70代女性>
10年前にピロリ菌除菌。10年ぶりに胃カメラを受けました。まず内視鏡的治療をしましたが、病理学的に進行していたため、追加手術となりました。
ピロリ菌除菌後の胃の壁(粘膜)は、赤くなったり(発赤)、凸凹になったりすることがあり、そこに胃がんが発生しやすいとされています。
除菌後の胃がんは、周囲の粘膜と似たように発生する傾向があり(「がん」と「非がん部」の色調や凸凹の差が分かりにくい)、発見が困難な場合があります。
除菌後胃がんの多くは内視鏡的治療が可能な早期がんですが、その理由の1つとして、除菌後でも定期的に胃カメラを受けていることが挙げられます。
しかし胃カメラの間隔が開いてしまったため、内視鏡的治療のできない進行した段階でがんが見つかることもあります。
ピロリ菌除菌後の胃がんの多くは除菌の3年以内に発見されますが、少数ながらも10年以上たってから見つかることもあります(上の2例は、除菌してから10年以上経過しています)。
たとえピロリ菌の除菌に成功したとしても、除菌できた時期に関わらず、定期的に胃カメラを受けることをお勧めします。
<参考文献>
鎌田 智有ほか.胃と腸 2008; 43: 1810-19.
兒玉 雅明ほか. 日本ヘリコバクター学会誌 2023; 37-45.
貝瀬 満ほか.消化器内視鏡 2022; 34: 175-83.
野中 康一ほか.上部・下部消化管内視鏡診断㊙︎ノート 2.医学書院, 2018.
注:「今月の1例」は、今月に内視鏡を行なった症例とは限りません。過去の症例も含まれます。