消化器内科・内視鏡科
- 多摩市連光寺1-8-3
- 042-372-4853
院長コラム
COLUMN
COLUMN
40代の女性の方です。
7か月前の健康診断で便潜血陽性を指摘されましたが、とくに自覚症状がないため医療機関を受診しませんでした。
1か月前から便に血がついているのに気づき、当院を受診しました。
大腸内視鏡検査をおこなったところ、S状結腸に3cm大の腫瘍を認めました。生検で大腸がんと診断しました。
内視鏡的治療の適応はないと判断し、ロボット支援による手術をおこないました。
切除検体の病理検査では、がんは固有筋層まで浸潤(T2)していましたが、最終ステージはIでした。
<便潜血検査>
大腸がんは、がん種別の死亡数で肺がんについで全体の第2位です。
また男女別の死亡数では、大腸がんは男性で第2位、そして女性で第1位を占めています。
しかし大腸がんは、早期に発見できれば完治できる可能性があり、ステージ1の大腸がんの5年生存率は90%以上です。
その一方で、初期の大腸がんの多くは、自覚症状(腹痛、便通異常、血便など)がありません。
すなわち早期に大腸がんを発見するためには、無症状のうちになんらかの検査を受ける必要があります。
我が国では、40歳以上の方を対象にして、便潜血検査による大腸がん検診がおこなわれています。
便潜血検査による大腸がん検診には死亡率減少効果があり、その有用性が示されています。
通常は、2日分の便で潜血反応をチェックします(2日法)。
このうち1回でも潜血反応が陽性ならば、大腸内視鏡検査を受ける必要があります。
1回だけ陽性の場合、再度の便潜血検査を希望されることがありますが、これは推奨されていません。
便潜血が陽性であったにもかかわらず、大腸内視鏡検査などの精密検査を受けない方が少なくないのが問題となっています(2020年度消化器がん検診全国集計結果では、40%以上の方が受けていません)。
精密検査を受けない理由は様々ですが、多いのは以下の3つです。
→ 早期の大腸がんの多くは症状がありませんので、症状がないからといって大腸がんは否定できません。
→ 便潜血では、痔と大腸がんからの出血の区別はできません。
→ 医師の技術の向上、内視鏡機器の改良、そして適切な鎮痛剤の使用により、苦しさに配慮した大腸カメラを受けることが可能です
当院で便潜血検査をきっかけに見つかった大腸がんを提示します。
50代、男性。盲腸の腫瘍。内視鏡的に切除可能で、早期がんでした(粘膜がん)。
70代、女性。横行結腸の腫瘍。内視鏡的に切除可能で、早期がん(粘膜がん)でした。
50代、男性。S状結腸の腫瘍。内視鏡的に切除可能で、早期がん(粘膜がん)でした。
60代、男性。横行結腸の腫瘍。内視鏡的に切除可能で、早期がん(粘膜がん)でした。
便潜血が陽性にもかかわらず大腸内視鏡検査を受けないことは、完治できる早期の大腸がんを見つける機会を失うことになりかねません。
便潜血が陽性の場合は、必ず大腸内視鏡検査などの精密検査を受けましょう。
<参考文献>
大腸ポリープ診療ガイドライン 2020. 南光堂.
大腸がん検診マニュアル -2021度改訂版- 日本消化器がん検診学会雑誌2022;60:385-536
注:「今月の1例」は、今月に内視鏡を行なった症例とは限りません。過去の症例も含まれます。