消化器内科・内視鏡科
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院長コラム
COLUMN
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50代の男性の方です。以前より胃の粘膜下腫瘍を指摘されており、フォロー目的に当院で初めて胃カメラを受けました。なおピロリ菌の感染歴はありません(ピロリ菌未感染)。
下の胃カメラの写真で、胃がんはどこにあるでしょうか?
胃粘膜下腫瘍のすぐ近くに、色があせた部位(褪色域)があります。大きさは3mm程度です。
<NBI強調画像>
生検をしたところ、印環細胞がん(未分化型がん)という診断でした。
他院にて内視鏡的治療を行いましたが、切除した標本内にはがんを認めませんでした。生検により、がんが消えてしまったと考えられます。
なお同時に胃粘膜下腫瘍も内視鏡で切除していただきましたが、こちらは脂肪腫でした。
<解説>
今回の1例では、3つのキーワードが含まれています。
① 微小胃がん
② ピロリ菌未感染胃がん
③ 未分化型胃がん
以下、簡単に解説します。
① 微小胃がん
微小胃がんとは、大きさが5mm以下の胃がんのことです。
小さい段階で胃がんを発見できれば、内視鏡での治療を選択することができ、患者さんの負担も軽くなります。
一方で胃がんが小さいほど、発見が難しくなります。
微小胃がんの頻度は、早期胃がん全体の数%程度と報告されています。
しかし、近年、内視鏡機器の進歩と内視鏡医のレベルの向上もあり、微小胃がんが発見される機会が増えています。
② ピロリ菌未感染胃がん
ピロリ菌は、胃がんの原因として最も重要です。
日本においては、胃がんの約99%はピロリ菌が関係しているとされています。
逆にピロリ菌が関係していない胃がん(ピロリ菌未感染胃がん)の頻度は、胃がん全体の約1%未満と非常にまれです。
ピロリ菌未感染とは、一度もピロリ菌に感染したことがない状態を指し、除菌治療によりピロリ菌が消えた場合は含まれません。
ピロリ菌未感染の胃は、炎症のないキレイな胃で、胃がんの心配はほとんどありません(胃がんのほとんどは、ピロリ菌による慢性胃炎から発生します)。
しかし日本においては、ピロリ菌感染率の低下にともない、ピロリ菌未感染の胃がんが注目されるようになっています。
ピロリ菌未感染の胃に発生するがんとしては、以下のものがあります。
この中でも、印環細胞がん(未分化型がん)の頻度が最も高いです。
ちなみに印環細胞がん以外のがん(腫瘍)は、2000年以降に発見・命名された新しい疾患です。
繰り返しになりますが、ピロリ菌未感染胃がんに遭遇するのはまれです。
しかもピロリ未感染胃がんの知識がないと、見逃してしまう可能性もあります。
そのため内視鏡医は、ピロリ菌に感染していない胃にできるがんの特徴をよく理解して、胃カメラをおこなう必要があります。
③ 未分化型胃がん
胃がんは、組織型(顕微鏡での見え方)により、分化型と未分化型の2つに大きく分かれます。
ここで分化度とは、がん組織がどのくらい元の正常組織と似ているか、その度合いを示す用語です。
高分化 → 中分化 → 低分化、と分化度が下がるにつれて、がん組織は正常組織とかけ離れた見え方になります(がんの悪性度が高くなります)。
未分化型胃がんには、低分化型腺がんと印環細胞がんがありますが、分化型胃がんにくらべて悪性度が高いとされています。
しかしピロリ菌未感染胃に発生する印環細胞がん(本症例)は、比較的おとなしいと考えられています。
ただし手術を必要とするような、進行したピロリ菌未感染印環細胞がんの報告もあり、できるだけ小さい段階で発見する必要があるのは、言うまでもありません。
<参考文献>
高橋 寛ほか.Gastroenterological Endoscopy 2011; 53:1229-40.
山本 頼正ほか.Gastroenterological Endoscopy 2016; 58: 1492-1503.
藤崎 順子ほか.Gastroenterological Endoscopy 2018; 1450-63.
野中 康一ほか.上部・下部消化管内視鏡診断㊙︎ノート 2.医学書院, 2018.
注:「今月の1例」は、今月に内視鏡を行なった症例とは限りません。過去の症例も含まれます。