消化器内科・内視鏡科みゆきクリニック

       

院長コラム

COLUMN

今月の1例:胃粘膜下腫瘍(GIST)

80代女性の方です。

以前より胃カメラで胃粘膜下腫瘍を指摘されていました。

念のため、総合病院で再評価を受けました。

胃カメラでは胃の壁の中に半球状の腫瘍を認めます。

 

 

CTでも胃壁内に15mmの腫瘍が確認できます。

 

(府中恵仁会病院消化器内科部長 倉田 勇先生ご提供)

 

更なる精査が必要と判断され、超音波内視鏡検査目的に当院にご紹介となりました。

超音波内視鏡検査では、胃壁の第4層の中に腫瘍を認めます。

 

 

引き続き超音波内視鏡ガイド下穿刺細胞診を行いました。

 

 

病理検査で胃GISTと診断しました。

今後、手術の予定です。

<胃GIST>

 

胃の壁の中に発生する腫瘍を胃粘膜下腫瘍といいます(注:必ずしも腫瘍というわけではないので、近年は「胃粘膜下病変」と呼ばれます)。

 

 

 

胃の壁は地層のようになっていて、腫瘍がどの層にあるかで、腫瘍の種類がある程度、推定できます。

 

 

胃GIST(消化管間質腫瘍)は、胃粘膜下腫瘍の一種で、胃壁の第4層(固有筋層)に発生する腫瘍です。

頻度は1年間で10万人あたり1、2人程度とされています。

年齢は50〜60歳代が多く、頻度の男女差はありません。

胃GISTの多くは症状がありませんが、腫瘍から出血をすると吐血や下血(黒い便が出る)、あるいは貧血症状(立ちくらみ、息切れ、など)をおこします。

診断のきっかけは、胃カメラで胃の粘膜がこぶ状にもり上がっているのに気づくことですが、見た目だけでは胃GISTかわかりません。

胃GISTときちんと診断するためには、腫瘍組織の病理検査が必須です。

しかし胃GISTは正常の胃粘膜に覆われているため、通常の生検では診断がつかないことが多いです。

今回の症例のように、超音波内視鏡ガイド下穿刺診や穴をあけるように生検をくり返すボーリング生検などがおこなわれます。

胃GISTと診断された場合、外科的治療(手術)が第一選択となります(Q&Aをご参照ください)。

 

―胃GISTに関するQ&A―

 

QGISTの治療法は?

A・手術が基本です。

 

胃GISTの根本的な治療は、手術です。

日本のGISTガイドラインでは、他の臓器やリンパ節に転移がない場合には、腫瘍の大きさに関わらず手術が勧められています。

腹腔鏡による胃切除が一般的ですが、近年、胃カメラと腹腔鏡を合わせた治療がおこなわれています(LECS: Laparoscopy and Endoscopy Cooperative Surgery[腹腔鏡・内視鏡合同手術])。

LECSは腫瘍のまわりをくり抜くだけなので、腹腔鏡下手術と異なり、胃を余分に切らずにすみます。

腫瘍が非常に大きくて手術が難しい場合や転移がある場合には、薬物(イマチニブなど)による治療がおこなわれます。

 

Q・小さな(2cm未満)のGISTでも手術が必要ですか?

A・GISTと診断された場合には、小さくても手術が勧められています。

 

前述したように日本のガイドラインでは、たとえ2cm未満の小さなGISTでも手術が勧められています。

その理由の1つとして、小さなGISTでも転移する危険性が0でないことがあげられます。

しかし2cm未満の小さな胃GISTを放置した場合と手術した場合で、生存期間に明らかな差があるのかは不明です。

実際のところは、胃カメラで偶然に発見された小さな胃粘膜下腫瘍は、それ以上の精密検査をせず、経過観察となっていることが多いと思われます。

そのような腫瘍の中には、きっとGISTも含まれているでしょう。

今後、2cm未満の胃GISTの自然経過が明らかになることにより、治療方針は変わる可能性はあります。

 

Q胃粘膜下腫瘍が経過観察となった場合、どのくらいの頻度で胃カメラを受ければいいですか?

A・年に12回の胃カメラで腫瘍の形や大きさの変化をみた方がいいでしょう。

 

ここでは胃カメラで偶然に見つかった小さな胃粘膜下腫瘍で、GISTの診断がついていないという前提とします。

実際の現場では、1cm程度の小さな胃粘膜下腫瘍ですと、それ以上の精密検査はおこなわれないことが多いです。

ただそのような小さな腫瘍でも大きくなってくるようですと、悪性化の可能性があり、精密検査・治療が必要となります。

そのため、年1〜2回程度は胃カメラでチェックすることが勧められます。

 

<参考文献>

岡田 裕之.Gastroenterol Endosc 2017;59:1289-1301.

木田 光弘、他.Gastroenterol Endosc 2018;60:1116-31.

Hirota S, et al. International Journal of Clinical Oncology. 2024;29:647-80.

 

注:「今月の1例」は、今月に内視鏡を行なった症例とは限りません。過去の症例も含まれます。

カテゴリー

最近の投稿