消化器内科・内視鏡科みゆきクリニック

       

院長コラム

COLUMN

今月の1例:膵充実性偽乳頭腫瘍

20代女性の方です。

上腹部痛があるため、他院で腹部エコー検査を受けたところ、膵ぞうに腫瘍を認めました。

精査・加療目的に大学病院を受診し、造影腹部CTで膵頭部に腫瘍が確認されたため、超音波内視鏡検査目的に当院を紹介受診されました。

腹部CT検査では、膵頭部に2cm大の類円形腫瘍があり、内部に造影効果のある部位も認めます。

 

<腹部CT>

 

腫瘍の壁は一部、石灰化(矢印)しています。

 

<腹部CT>

 

CT所見からは、膵充実性偽乳頭腫瘍、膵神経内分泌腫瘍などが疑われました。

当院で施行した超音波内視鏡検査では、膵頭部に18X22mmの腫瘍を認め、内部には高エコー部(出血を反映)と低エコー部(嚢胞)が混在していました。

 

<超音波内視鏡>

 

引きつづき超音波内視鏡下穿刺診をおこないました。

 

 

採取した検体の免疫染色の結果(β-catenin陽性、synaptophysin一部陽性、chromogranin A陰性)から、膵充実性偽乳頭腫瘍と診断しました。

紹介元の病院で、無事、手術を受けられました。

 

<膵充実性偽乳頭腫瘍(SPN)>

 

膵充実性偽乳頭腫瘍(SPN)は、膵腫瘍の1〜2%程度を占める稀な腫瘍です。

SPNは、20〜30歳代の若い女性に多く発生するという特徴があります。

腫瘍が大きくなったり、腫瘍の中で出血したりすると、腹痛や背部痛などの症状が出ますが、その頻度は35〜60%程度です。

SPNの発見契機としては、今回の症例のように症状があるために受けた画像検査が多いですが、無症状で偶然に発見される機会も増えてきています。

SPNは、診断された時点で手術となります(後述します)。

 

― 膵充実性偽乳頭腫瘍(SPN)に関するQ&A ―

 

QSPNの診断は?

A・画像検査および病理検査によります。

SPNの画像検査としては、腹部エコー、造影腹部CT、MRI、超音波内視鏡検査などがあります。

これらの画像で、SPNに特徴的な所見が認められれば、診断はそれほど難しくありません。SPNは画像検査で診断されます。

しかし画像所見だけではSPNの診断が難しい場合には、診断を確定するために本例のように超音波内視鏡下穿刺診が必要となります。

とくに採取した組織の免疫染色は、SPNと他の膵腫瘍(膵癌、膵神経内分泌腫瘍など)と区別するために有用です。

超音波内視鏡下穿刺診のSPNの診断能は、70〜90%程度と報告されています。

現時点では、SPNの診断に有用な血液検査はありません。

 

QSPNの治療は?

A・外科的な手術です。

SPNは、診断された時点で手術するのが原則です。

一般的にはSPNの悪性度は低いとされていますが、リンパ管や脈管への浸潤、肝ぞうなどへの転移をきたすことがあるため、外科的な切除が勧められます。

腫瘍がきちんと切除できた場合の予後はとても良好で、5年生存率は95%以上です。

 

Q・手術後のフォローは必要ですか?

A・最低、5年間の経過観察が必要です。

前述したように、SPNを手術した場合の予後は良好です。

一方で、術後の再発率は2〜4%とされており、その多くは5年以内に発生しています。

そのため手術後5年間は定期的な経過観察が望ましいとされています。

ただ稀ながら、手術後5年以上たってから再発しているとの報告もあります。

いつまで経過を見る必要があるかは結論が出ていません。

 

<参考文献>

Lau JK, et al. Pancreas 2014;43:331-7.

花田 敬士、他.消化器内視鏡 2023;35:925-9.

Fu C, et al. Front. Oncol. 2024; 14:1349282.

Javid Chaudhary A, et al. ACG Case Rep J 2024;11:e01418.

注:「今月の1例」は、今月に内視鏡を行なった症例とは限りません。過去の症例も含まれます。

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