消化器内科・内視鏡科みゆきクリニック

       

院長コラム

COLUMN

今月の1例:膵漿液(しょうえき)性嚢胞腫瘍(SCN)

60代女性の方です。

当院受診の約10年前から膵嚢胞を指摘されていました。

他院で受けた超音波内視鏡検査で、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)または膵粘液性嚢胞腫瘍(MCN)が疑われ、手術を勧められました。

手術前に再度、超音波内視鏡検査による評価をおこなうため、当院を紹介受診となりました。

腹部MRIでは、膵臓の体部に約3cmの嚢胞を認めます。

 

<腹部MRI>

 

 

 

超音波内視鏡検査では、2つの大きな嚢胞の間に小さな嚢胞の集合体が観察されました。

 

<超音波内視鏡>

 

 

<超音波内視鏡所見のイメージ>

 

この超音波内視鏡の所見から、IPMNやMCNではなく混合型の膵漿液性嚢胞腫瘍と診断しました。

念の為、東京大学病院消化器内科で造影剤を用いた超音波内視鏡検査を施行していただきましたが、やはり膵漿液性嚢胞腫瘍に矛盾しない所見でした。

現時点では膵漿液性嚢胞腫瘍に対する手術適応はないと判断し、当院で定期的に経過観察となっています。

 

 

膵漿液(しょうえき)性嚢胞腫瘍(SCN)

 

膵漿液(しょうえき)性嚢胞腫瘍(SCN)とは、膵嚢胞性疾患の一種で、漿液(サラサラした液体)を含んだ嚢胞が集まった腫瘍です。

SCNの頻度は、膵腫瘍全体の約1〜2%と比較的まれです。

SCNのほとんどが良性ですが、まれに悪性化することがあります(後述します)。

 

―膵漿液性嚢胞腫瘍(SCN)に関するQ&A―

 

Q・どのような人にSCNができやすいですか?

A・50から60歳代の女性に多いとされています。

 

Q・SCNにはどんな種類がありますか?

A・小嚢胞型、大嚢胞型、混合嚢胞型、充実型に分けられます。

 

SCNは、嚢胞の形状から以下の4つに分類されます。

 

 

この中でも小嚢胞型が典型的なSCNで、その頻度は最も多いです。小嚢胞型SCNの断面像は特徴的で、蜂の巣状構造と称されます。画像検査でこの所見が確認できれば、SCNと診断が可能です。

大嚢胞型SCNは、直径1cm以上の嚢胞が集まった腫瘍です。

混合型SCNは、小嚢胞型と大嚢胞型SCNの両者が合わさった腫瘍です。

充実型SCNは、その頻度は少ないものの、他の腫瘍(膵がんや膵神経内分泌腫瘍など)との区別が難しいことがあります。

 

Q・SCNには症状はありますか?

A・ほとんどありません。

 

多くの場合はとくに自覚症状がなく、偶然、画像検査で発見されます。しかし腫瘍が大きくなると、腹痛や黄疸をきたすことがあります。

 

Q・SCNの診断法は?

A・腹部エコー、CT、MRI、超音波内視鏡検査などで診断をします。

 

SCNの診断は画像検査が中心であり、腹部エコー、CT、MRI、そして超音波内視鏡検査があります。

これらの画像検査で、SCNに特徴的な蜂の巣状構造が確認できればSCNの診断が可能です。

各種画像検査の中では、超音波内視鏡検査がもっとも蜂の巣状構造を確認する能力が高いとされています。

ただし、SCNと他の腫瘍(IPMN、MCN、神経内分泌腫瘍、膵がんなど)との区別が難しいこともあり、その場合には超音波内視鏡ガイド下穿刺細胞診、あるいは手術がおこなわれることもあります。

 

Q・SCNは悪性(がん)化しますか?

A・稀です

 

SCNの悪性化は稀で、1〜2%程度とされています。

ちなみにSCNの悪性化とは、肝臓やリンパ節などに転移したもののみを指します。

 

Q・SCNの治療は?

A・無症状で小さい腫瘍は、経過観察となります。

 

前述したように、ほとんどのSCNは良性ですので、無症状で画像検査にてSCNと診断可能な場合には、経過観察となります。

逆に症状(腹痛や黄疸など)がある場合、手術を要するような他の腫瘍との区別が難しい場合、腫瘍が増大傾向にある場合には、手術を考慮します。

またSCNの大きさが4〜5cm以上の場合には、手術をしている施設もあります。

 

<参考文献>

Kimura W, et al. Pancreas 2012;41:380-7.

木村 理.漿液性嚢胞腫瘍(SCN)の臨床病理学的特徴.―全国調査結果を踏まえてー.膵臓 2018; 33:131-9.

中井 陽介、他.漿液性嚢胞腫瘍の診断.消化器内視鏡.2023; 35:916-20.

肱岡 範.胆膵EUSセミナー.羊土社.

 

注:「今月の1例」は、今月に内視鏡を行なった症例とは限りません。過去の症例も含まれます。

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