消化器内科・内視鏡科
- 多摩市連光寺1-8-3
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院長コラム
COLUMN
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70代の男性の方です。
当院にて糖尿病の治療を受けていました。
当院で腹部エコーを行ったところ、膵ぞうに嚢胞を認めました。
腹部MRI検査では、膵ぞうにのう胞を多数認め、分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と診断しました。この時点では、とくに膵がんを疑う所見はないため、経過観察となりました。
<腹部MRI>
その半年後のMRI検査で膵管の軽度拡張を認めたため、大学病院で膵液の細胞診を行いましたが、がん細胞を認めませんでした。
そのため、再度、経過観察となりました。
さらに半年後のMRI検査では、膵管の一部が狭くなっており、狭窄部より尾側の膵管はさらに拡張していました。
<腹部MRI>
当院で超音波内視鏡検査を行ったところ、膵ぞうに約15mmの腫瘍を認めました。腫瘍と元からある嚢胞とは離れていました。
<超音波内視鏡>
この超音波内視鏡検査所見から、分枝型IPMNに併存する膵がんと考え、日本医科大学多摩永山病院外科の横山 正先生に手術していただきました。
<本症例のシェーマ>
膵のう胞とは別の部位に膵がんが発生していました。
最終診断は、ステージ1の膵がんでした。
手術後5年が経ちますが、膵がんの再発はありません。
現在も当院にて定期的に膵ぞうの画像検査を行っています。
<分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)併存膵がん>
膵臓には、のう胞(液体の入った袋)を呈する様々な疾患があります(「膵のう胞性疾患」https://miyuki-cl.com/blog/膵嚢胞(すいのうほう)とは?/)。
膵のう胞性疾患の中でも、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)はもっとも頻度が多く、偶然に見つかった膵のう胞の約80%はIPMNとされています。
IPMNは、主膵管型と分枝型に大別されます。
IPMNを主膵管型と分枝型に分ける一番の理由は、両者で悪性化する頻度が異なるためです。
主膵管型IPMNは、悪性化(がん化)する危険性が高いため、主膵管型IPMNと診断された時点で手術を検討します。
一方、分枝型IPMNは、その多くが悪性化せずに経過します。
そのため分枝型IPMNは、悪性化の徴候がなければ、手術をする必要がありません。
しかし分枝型IPMNは重要な膵がんの危険因子であり、経過観察する必要があります(https://miyuki-cl.com/blog/膵がんの危険因子:どのような人が膵がんになり/)。
分枝型IPMNのがん化には、以下の2つのパターンがあります。
「IPMN由来膵がん」の初期は大人しいことがありますが、「IPMN併存膵がん」は通常の膵がんと同じ経過をたどります。
分枝型IPMNで怖いのは、「IPMN併存膵がん」です。
IPMN併存膵がんは、膵のう胞の大きさとは関係なく発生するため、膵のう胞が小さいからといって安心できません。
またIPMNと診断されてから5年以上経過した後でも、IPMN併存膵がんは発生します。
分枝型IPMNを経過観察するうえで重要なことは、膵のう胞自体の変化を見るだけではなく、膵のう胞がない場所に膵がんができていないかをきちんと評価することです。
分枝型IPMNの経過観察には、腹部超音波、CT、MRI、超音波内視鏡などの画像検査で行なわれます。
これらの画像検査の中でも、超音波内視鏡は小さな膵がんを見つけるのに最も有効な検査です。
半年に1回、超音波内視鏡を行って分枝型IPMNを経過観察している日本の施設では、約7%の症例でIPMN併存膵がんが発生しましたが、全例手術可能なステージであったと報告されています。
当院でも、分枝型IPMNの患者さんに対しては、半年に1回は超音波内視鏡かMRI検査を行うようにしています。
分枝型IPMNの経過観察中に膵がんができても、本症例のように小さいうちに発見できれば、長期の予後が期待できます。
<参考文献>
Ohtsuka T, et al. Pancreatology 2024; 24: 255-70.
Tada M, et al. Clin Gastoenterol Hepatol 2006; 4: 1265-70.
Kamata K, et al. Endoscopy 2014; 46: 22-9.
Oyama H, et al. Gastoenterology 2020; 158:226-37.
注:「今月の1例」は、今月に内視鏡を行なった症例とは限りません。過去の症例も含まれます。