消化器内科・内視鏡科
- 多摩市連光寺1-8-3
- 042-372-4853
院長コラム
COLUMN
COLUMN
40代女性の方です。
健診の腹部エコー検査で、膵ぞうに嚢胞を指摘されたため、当院を受診しました。
腹部MRIでは、膵尾部に2cmの嚢胞を認めます。
<腹部MRI>
超音波内視鏡検査では、単房性の嚢胞で、壁はやや厚めです。一部、結節様に見える部分もあります。
<超音波内視鏡>
以上の画像所見から膵粘性嚢胞腫瘍(MCN)と診断し、外科的手術をおこないました。
切除標本の病理検査でもMCNの診断で、悪性所見は認めませんでした。
<膵粘液性嚢胞腫瘍(MCN)>
膵粘液性嚢胞腫瘍(MNC)は、粘液を作る壁でおおわれた膵嚢胞性腫瘍の一種です。https://miyuki-cl.com/blog/膵嚢胞(すいのうほう)とは?/
粘液を産生する腫瘍という点で、MCNは膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と共通しています。
しかしMCNとIPMNでは、好発年齢や性、腫瘍の見た目などが異なります(下表)。
両者の特徴の大事な違いとしては、IPMNは男性と女性で大差がありませんが、MCNはほぼ全例が女性です。
また画像所見の違いとしては、IPMNはブドウの房様ですが、MCNはオレンジの断面のような形をしています。
MCNは比較的稀な腫瘍で、IPMNの10%程度の頻度とされています。
多くは無症状で、今回の症例のように画像検査で偶然、発見されます。
この腫瘍は悪性化するポテンシャルを有しているため、診断された時点で外科的に手術をするのが原則です。
― 膵粘液性嚢胞腫瘍(MCN)に関するQ&A ―
Q・MCNの診断は?
A・腹部CT、MRI、超音波内視鏡検査などの画像検査によります。
MCNは画像検査で診断されます。
画像検査法としては、腹部超音波、CT、MRI、超音波内視鏡検査があります。
超音波内視鏡検査は、腹部CT、MRIの後の精密検査としておこなわれることが多いです。
超音波内視鏡検査では、MCNに特徴的な嚢胞内嚢胞を観察することが可能です。
(右:超音波内視鏡。大きな嚢胞の中に小さな嚢胞が観察されます。左:超音波内視鏡下に嚢胞を穿刺し、その針の中に極細のカメラを入れて観察したところ。小さな嚢胞が見られます。) 出典:Tsujino T and Chang KJ. AJG 2016
また超音波内視鏡検査は、CTやMRIに比べて、MCNの悪性化と関係する壁在結節の診断に優れています。
Q・MCNは、必ず手術をしなければなりませんか?
A・手術が原則ですが、小さい腫瘍では経過観察することもあります。
悪性MCNの頻度は、10〜17%と報告されています。
逆にいうと、MCNの多く(80〜90%)は良性です。
それなのになぜ、MCNは原則、手術となるのでしょうか。
最大の理由は、MCNが悪性に進行した場合、必ずしも予後が良くないことです。
また画像検査だけでは良性と悪性の区別が難しいことも、その理由の1つです。
さらにMCNのほとんどが膵体尾部にあるため、手術の患者さんへの肉体的負担が、膵頭部の手術にくらべて少ないことも関係しているかもしれません。
近年、MCNの悪性化と関係している因子として、腫瘍の大きさ(4〜5cm以上)と嚢胞内の結節があげられています。
海外のガイドラインでは、無症状で結節のない4cm未満のMCNは経過観察可能とされています。
日本においても、高齢者の小さなMCNに対しては、経過観察を考えてもよいという意見もあります。
Q・MCNを手術しなかった場合、経過観察はどうしますか?
A・年に1回、できれば2回、画像検査を受けるのが無難でしょう
まず前提として、IPMNと異なりMCNの経過観察の決まった方法はありません。
これは特に日本においては、全てのMCNが手術の対象となるためです。
日本の研究者が主体で作成された2012年の国際ガイドラインでも、MCNの経過観察についての記載はありません。
一方、ヨーロッパのガイドラインでは、MCNを手術しなかった場合、最初の1年は半年おきに、その後は年1回の画像検査(MRI、超音波内視鏡)が勧められています。
様々な事情で外科的手術を選択しなかった場合、半年に1回程度は画像検査(MRI、超音波内視鏡など)を受けた方がいいでしょう(個人的意見です)。
ただ高齢や基礎疾患などで外科的手術ができない場合、経過観察は不要と思われます。
<参考文献>
鈴木 裕、他.日本臨床 2023;81:327-9.
中井 陽介、他.診断と治療 2020;108:1067-72.
Tsujino T and Chang KJ. Am J Gastroenterol 2016:111:1089.
European Study Group on Cystic Tumours of the Pancreas. Gut 2018;67:789-804.
Tanaka M, et al. Pancreatology 2012;12:183-97.
注:「今月の1例」は、今月に内視鏡を行なった症例とは限りません。過去の症例も含まれます。