消化器内科・内視鏡科
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院長コラム
COLUMN
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2023年に膵管内乳頭粘液性腫瘍(以下、IPMN)の国際診療ガイドラインが改定されました。
院長コラムでは、ガイドラインのうちIPMN悪性化予測因子とIPMNの経過観察法・期間について解説しています。
IPMN悪性化予測因子としては、悪性化の危険性が高い因子(High risk stigmata)と悪性化の懸念される所見(Worrisome features)に分けられます。
悪性化の危険性が高い因子については、別コラムをご参照ください。https://miyuki-cl.com/blog/膵管内乳頭粘液性腫瘍(ipmn)の新しい国際診療ガ/
本コラムでは、IPMN悪性化の懸念される所見について解説します。
最新のガイドラインでは、悪性化の懸念される所見として、以下の10所見が選ばれています。
ここで重要なのは、悪性化の懸念される所見とは、超音波内視鏡検査などの精密検査を要する所見ということです。
悪性化の懸念される所見があるからといって、すぐに手術が必要というわけではありません。
1. 急性膵炎の合併
膵ぞうの役割の1つは、食事を消化する消化酵素を作っています。
何らかの原因で消化酵素が過剰に作られると、膵ぞうや周囲の脂肪・タンパク質などを消化(溶かす)してしまいます。
これが急に起きるのが、急性膵炎です。
急性膵炎は「おなかの火傷」と表現されることもあり、かなり強い腹痛や背部痛、嘔吐などがおきます。
急性膵炎をおこした場合、原則、入院での治療となりますし、重症化すれば命を落とすこともあります(日本での重症膵炎の死亡率は約10%と報告されています)。
IPMNは、粘液(ドロっとした液体)を作る腫瘍です。
嚢胞を超音波内視鏡ガイド下に刺して採取した粘液です。IPMNの内溶液は、このように糸を引くのが特徴です。
(アメリカ時代の写真です)
本来、膵管にはサラサラした膵液が流れていますが、IPMNのドロっとした粘液が膵管に流れると、膵液の流れが悪くなり急性膵炎をおこすことがあります。
日本での多施設のデータによりますと、IPMNで急性膵炎を合併していた頻度は7.2%(99/1379例)でした。
また九州大学からの報告では、IPMNで手術した150例のうち急性膵炎を合併していたのは19例(13%)で、しかも悪性IPMNの頻度は急性膵炎を合併している例で多いという結果でした。
ただ個人的な経験では急性膵炎の頻度はそれほど多くなく、過去5年間で経験したことはありません。
また東京大学での3336例のIPMNの検討では、急性膵炎の合併は0.6%のみでした。
急性膵炎は、IPMN以外の様々な原因でもおきます(多いのは、飲酒と胆石です)。
急性膵炎の原因がIPMNと断定するのは難しいこともあります。
IPMNの他に明らかな原因がなく、急性膵炎を繰り返している場合には、手術が勧められます。
2. 血清CA19-9の上昇
血清CA19-9は、膵がんの腫瘍マーカーの1つです。
IPMNにおいても、血清CA19-9が上昇している場合は、悪性化している可能性があります。
しかし悪性IPMNにおける血清CA19-9の感度(悪性IPMNでCA19-9が上昇している割合)は高くありません。
また血清CA19-9は、良性・悪性いろんな疾患で上昇することがあります(肺疾患、婦人科疾患、胃がん、大腸がん、など)。
そのため血清CA19-9の上昇の原因としてIPMN以外ない場合、IPMNの画像所見(重要です)も考慮して、手術を検討します。
ちなみに東京大学の検討では、残念ながら血清CA19-9は悪性IPMNの早期発見に有用ではありませんでした。
3. 過去1年以内の糖尿病の新規発症または急性増悪
今回のガイドラインで、新たに加えられた所見です。
新たに糖尿病になった場合(新規発症)ともともとの糖尿病が悪化した場合(急性増悪)は、膵がんに注意ということは、私のコラムでも強調しています。https://miyuki-cl.com/blog/第36回-多摩糖尿病チーム医療研究会にて『膵がん/
IPMNにおいても、新規に発症した糖尿病がIPMNの悪性化と関係していると報告されています。
IPMNで糖尿病の新規発症または急性増悪が必ずしも悪性化とは言い切れませんが、膵がんが隠れている可能性があるためきちんと画像検査を受ける必要があります。
4. 嚢胞径:30mm以上
嚢胞が大きくなるにつれて、IPMN悪性化のリスクが高くなると考えられ、特に大きさが30mm以上は要注意とされています。
5. 造影される5mm未満の壁在結節
壁在結節とは、嚢胞の壁がポリープ様に盛り上がった部分です。
結節の存在は悪性化が疑われる重要な兆候で、結節の高さと悪性化が相関するとされています。
しかし結節が何mm以上あれば悪性化の危険性が高いかは、まだ十分な結論が出ていません(5mm以上なのか、10mm以上なのか)。
今回のガイドラインでは、5mm未満の壁在結節はIPMN悪性化の懸念される所見として、“弱く”推奨されています。
―IPMN悪性化の懸念される所見に関するQ&A―
Q・IPMNの大きさが30mm以上ある場合、手術が必要ですか?
A・嚢胞の大きさだけでは、手術をしない流れになっています。
嚢胞が30mm以上の場合、手術がおこなわれていた時期がありました。
しかし大きな手術をしても全くの良性であったという事例も少なくなく、近年では単に嚢胞の大きさだけを理由に手術するのは慎重になっています。
すなわち嚢胞の大きさに加えて、症状の有無(黄疸や急性膵炎など)や他の画像所見(特に壁在結節の高さと膵管の太さ)などを総合的に判断して、手術を決定するのが主流となっています。
<腹部MRI>
80代後半の方です。膵頭部に58mmのIPMNを認めます。
<超音波内視鏡検査>
超音波内視鏡検査では明らかな壁在結節を認めません。
この方はご高齢で無症状ということもあり、手術をせずに経過観察となっています。
*悪性化の懸念される所見6〜10については、別コラムで解説します。
<参考文献>
Oyama H, et al. J Gastroenerol 2023;58:1068-1080.
Ohtsuka T, et al. Pancreatology 2024;24:255-70.
Hamada T, et al. Clin Gastroenterol Hepatol 2024;22:2413-23.