消化器内科・内視鏡科
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院長コラム
COLUMN
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分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍(以下、分枝型IPMN)の多くは、良性の腫瘍です。
しかし、分枝型IPMNは膵がんの前がん病変と考えられており、一部のIPMNは悪性化する危険性があります。
分枝型IPMNの悪性化には、IPMN由来膵がん(IPMN=嚢胞自体ががん化)とIPMN併存膵がん(IPMN=嚢胞とは離れた部位ががん化)、があります。https://miyuki-cl.com/blog/膵管内乳頭粘液性腫瘍(ipmn)と膵がんの関係とは/
国際的には、分枝型IPMNの悪性化といえばIPMN由来膵がんを指し、IPMN併存膵がんの認識は乏しいです。
しかし日本では、以前からIPMN併存膵がんの存在を認識しており、IPMN患者さんの予後を決めるのは、IPMN由来膵がんよりもIPMN併存膵がんと考えられています。
ただし、IPMN併存膵がんの実情(頻度、経過観察法、危険因子、など)については、まだよく分かっていません。
この実情を把握するために、2012年より日本膵臓学会を中心に日本のIPMN専門施設が共同して、研究を開始しました。
そして2024年、待望の結果がまとめられ、論文化されました。
Ohtsuka T, Maguchi H, Tokunaga S, Hijioka S, Takayama Y, Koshita S, Hanada K, Sudo K, Uehara H, Tanno S, Tada M, Kimura W, Nakamura M, Kin T, Kamata K, Masamune A, Iwashita T, Akahoshi K, Ueki T, Okamura K, Kato H, Kumagi T, Kawabe K, Yoshida K, Mukai T, Sakagami J, Hirono S, Abue M, Nakafusa T, Morita M, Shimosegawa T, Tanaka M; Japan Pancreas Society IPMN Prospective Surveillance Group. Pancreatology. 2024 Nov;24(7):1141-1151.
本コラムでは、この論文について解説します。
・分枝型IPMNの自然経過については、まだ十分に解明されていません。
・この研究では、特にIPMN併存膵がんが発生するリスクについて調べました。
・日本膵臓学会主導により、大規模な前向き多施設共同研究です。
・嚢胞の大きさが10mm以上の分枝型IPMNの患者さんを対象に、5年間に渡り、6か月間隔で画像・血液検査を実施しました。
・分枝型IPMNの進行度、がんの発生について詳しく観察しました。
・日本の74施設から集められた2104人の分枝型IPMN患者さんの観察をおこないました。
・IPMN由来膵がんの危険因子として、以下の因子が同定されました。
・IPMN併存膵がんの危険因子としては、以下の因子が同定されました。
*嚢胞の大きさとIPMN併存膵がんは関係ありませんでした。
日本の研究者たちは以前から、分枝型IPMNの悪性化には由来膵がんと併存膵がんの2つのパターンがある(dual carcinogenesis)と主張してきました。
本研究によって、この主張の正さが証明されました。
特に注目すべき点は、IPMN由来膵がんとIPMN併存膵がんの発生数はがほぼ同じだったことです。
東京大学からも同様の結果が報告されています。
このことから、分枝型IPMNを経過観察する際には、IPMNの嚢胞だけでなく、嚢胞以外の部位に膵がんが発生していないか注意して観察することがきわめて重要です。
今回の研究では、IPMN併存膵がんと診断された患者さんの約3分の2(67%)が手術可能な段階で発見されました。これは通常の膵がんの手術可能率と比べて高い数字であり、定期的にIPMN患者さんを観察していたことが早期発見につながったと考えられます。
しかし一方で、国内のIPMN専門施設で6か月ごとに定期検査を行なっていたにもかかわらず、約3分の1のIPMN併存膵がんは手術できない進行した段階で発見されています。これは膵がんの早期診断がいかに難しいかを示しています。
今後の重要な研究課題としては、以下の2点が挙げられます:
<参考文献>
Ohtsuka T, et al. Pancreatology 2024;24:1141-51.
Oyama H, et al. J Gastroenterol 2023;58:1068-80.