消化器内科・内視鏡科みゆきクリニック

       

院長コラム

COLUMN

論文紹介:米国における分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の長期経過が明らかに

2025年1月のコラムで、東京大学消化器内科の濱田 毅先生らによる分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の論文を紹介させていただきました。

なんと濱田先生がコラムを読んでくださり、「アメリカからこんな論文が出ていますよ」とご連絡をいただきました。

本コラムでは、その論文について解説いたします。

ハーバード大学マサチューセッツ総合病院(MGH)からの報告です。

Unraveling the Long-term Natural History of Branch Duct Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm: Beyond 10 years.

Assawasirisin C, Fagenholz P, Qadan M, Hernandez-Barco Y, Aimprasittichai S, Kambadakone A, Mino-Kenudson M, Ike A, Chen SY, Sheng C, Brugge W, Warshaw AL, Lillemoe KD, Fernández-Del Castillo C. Ann Surg. 2025 Jan 1;281(1):154-160. doi: 10.1097/SLA.0000000000006535. Epub 2024 Sep 10.PMID: 39253809

 

背景と目的:

 

・分枝型IPMNは、膵がんの前がん病変と考えられています。しかしその自然経過は、ほとんど解明されていません。

・この研究の目的は、分枝型IPMNの自然経過、とくに「悪性化の懸念される所見」の出現と「悪性化のリスク」、を明らかにすることです。

 

方法:

 

・ハーバード大学MGHでおこなわれた後ろ向きの研究です。

・分枝型IPMNで10年以上経過観察している患者さんを対象としました。

・悪性化の懸念される所見(2017年国際診療ガイドラインによる)の発生頻度と悪性化について調査しました。

 

結果:

 

・316人の分枝型IPMN患者さんの観察を行いました(観察期間*は13.6年)。(*中央値)

・嚢胞は経過とともに大きくなっていました。

 

 

・悪性化の懸念される所見は、10年で24%、経過観察終了時には44%(140人)で発生しており、発生までの期間*は9.3年でした。(*中央値)

・悪性化は26人(8.2%)にみられ、IPMN由来膵がんが17人、IPMN併存膵がんが9人でした。

・分枝型IPMNの診断から悪性化するまでの期間*は12.4年でした。(*中央値)

・分枝型IPMN患者さんにおける膵がんの発生するリスクは、同年代の一般人口と比べて9倍でした。

・悪性化したIPMNを手術した場合の生存期間*は5.9年で、さまざま理由で手術をしなかった場合には1.4年の生存期間*でした。(*中央値)

・複数の悪性化の懸念される所見を有する場合、29%の患者さんにおいて悪性化しました。

・悪性化の懸念される所見の数が増えるに従い、悪性化率が高くなりました。

 

 

・悪性化した群では、①症状がある、②壁在結節が存在する、③膵管拡張がみられる、④複数の悪性化が懸念される因子を有する、といった特徴の割合が有意に高いことが示されました。なお嚢胞の大きさは関連していませんでした。

 

 

結論:

 

・分枝型IPMNに対する10年間の経過観察において、IPMNは進行し続け、12人に1人が悪性化します。

・膵がんのリスクは、同年代の一般人口と比較して9倍高いと考えられます。

 

コメント

 

「小さな分枝型IPMNで5年間変化がなければ、経過観察を終了してもよい」、という見解が米国では存在します。

しかし日本では、「5年経過しても膵がんが発生することがある」「小さな嚢胞でも、IPMN併存膵がんが発生するリスクがある」、という認識が広がっており、この米国の見解は受け入れがたいものでした。

さらに、「5年間変化なければ観察終了していい」という見解の裏付けとなる十分な根拠は乏しいのが実情です。

今回、マサチューセッツ総合病院(MGH)が、「分枝型IPMNは長期的にどのような経過をたどるのか」という重要な課題の究明に取り組みました。

その結果、分枝型IPMNは10年以上経過しても進行したり悪性化したりする危険性があることが明らかになりました。

また米国においても、IPMN由来膵がんだけでなくIPMN併存膵がんが少なからず発生するということも判明しました。

さらに複数の悪性化の懸念される所見がある場合には、悪性化の危険性が高まるということも分かりました。

これらの結果は、東京大学消化器内科の報告とほぼ一致しています。

この論文の限界としては、経過観察の具体的方法が明確でないこと、IPMN由来膵がんについての詳細な検討がなされていないこと、最新ではなく旧ガイドラインの悪性化の懸念される所見が採用されていること、が挙げられます。

それでも、分枝型IPMN患者さんの長期予後を理解する上で、非常に重要な研究成果といえるでしょう。

最後に、東京大学消化器内科の濱田先生より、「IPMN併存膵がんの高危険群をどう見極めるのかについて取り組んでいきます」、という力強いメッセージをいただいています。

 

<参考文献>

Assawasirisin C, et al. Ann Surg. 2025;281:154-60.

Hamada T, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2024;22:2413-23.e18.

Oyama H, et al. Gastroenterology 2020;158:226-37.

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