消化器内科・内視鏡科
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院長コラム
COLUMN
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がんは、様々な要因(年齢、性別、遺伝的素因、生活習慣、感染症、など)が複雑にからみあって、発生します。
がんの発生リスクを高める要因を、危険因子と言いますが、下の表に代表的ながんとその危険因子を示します。
がんの危険因子を知ることは、がんの予防および早期発見の点で非常に重要です。
治療が可能な危険因子(たとえば、ピロリ菌感染、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、など)ならば、その因子を治療することで、がんの発生リスクを下げられます。
また危険因子をもっている人々に絞って、定期的に検査をすることで、より効率的にがんを発見できる可能性があります。
それでは膵がんの危険因子には、どのようなものがあるでしょうか。
膵がんの危険因子
① 膵がんの家族歴
膵がんのうち10〜15%の人は、膵がんの家族歴があるとされています。
血縁者に膵がんの人がいると、膵がんの発生リスクは高くなります。
とくに第一度近親者(親、兄弟姉妹、子供)に、膵がんの人がいる場合は要注意です(第一度近親者に膵がんが2人以上いる場合、「家族性膵がん家系」と呼ばれます)。
欧米からの報告では、膵がんの第一度近親者の人数が増えるにつれて、膵がんのリスクは上昇します。
② 喫煙
以前より喫煙と膵がんは関連性があることが指摘されていました。
喫煙と膵がんについての論文78本の結果をまとめた報告では、非喫煙者とくらべて、喫煙者の膵がん発生のリスクは1.8倍でした。
また日本からの報告(Koyanagi Y, et al. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2019;28:1370-78)によりますと、非喫煙者と比較して喫煙者は、男女ともに膵がんのリスクが高いことがわかりました(男性で1.59倍、女性で1.81倍)。
禁煙により膵がんのリスクを下げられる可能性がありますが、10年以上の禁煙を要します。
③ 飲酒
1日に24 gから50 g以上のアルコールをとっている、いわゆる大酒家の人は、膵がんのリスクが約1.1から1.3倍高くなります。
ちなみにアルコール約20 gは、ビール中瓶1本、日本酒1合、ウイスキーダブル1杯、に相当します。
また休肝日なく大量の飲酒をすると、慢性膵炎や糖尿病を引き起こす危険性があります(慢性膵炎や糖尿病は、膵がんの危険因子です)。
④糖尿病
膵がんと糖尿病の関係につきましては、私の講演の要旨をコラムに載せていますのでご参照ください(https://miyuki-cl.com/blog/第36回-多摩糖尿病チーム医療研究会にて『膵がん/)。
⑤膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)・膵のう胞
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)とは、膵管の上皮(膵管の壁の表面の層)から発生する腫瘍です。
IPMNは、主膵管型(膵管の幹:主膵管の部分に発生)と分枝型(膵管の枝:分枝膵管の部分に発生)に分けられます。
主膵管型IPMNは、主膵管が太くなります。
分枝型IPMNは、膵管の枝(分枝)が、のう胞(袋)状に太くなります。
画像検査で膵のう胞を指摘された場合、その多くは分枝型IPMNの可能性があります。
しかし、のう胞が小さい場合、通常の画像検査では、分枝型IPMNと単なる“膵のう胞”を区別することは困難です。
主膵管型IPMNは、膵がんになる危険性が高く、手術が勧められています。
一方、分枝型IPMNのほとんどは良性ですが、一部が膵がんに移行する危険性があります。
分枝型IPMNでは、IPMN自体(のう胞部分)ががん化するだけでなく、IPMN(のう胞)とは別の部位にいきなり膵がんが発生することがあり、注意が必要です。
分枝型IPMNから膵がんが発生する危険性は、年率1.1%から2.5%とされています。
東大消化器内科で1000例以上の分枝型IPMNを経過観察した報告では、IPMNの診断から5年での膵がんの発生率は3.3%でした(Oyama H, et al. Gastroenterology 2020;158:226-37.E5)。
また東大消化器内科での別の検討(Tada M et al. Clin Gastroenterol Hepatol 2006;4:1265-70)では、IPMNまたは膵のう胞がある場合の膵がんの発生率は年率0.95%であり、IPMNや膵のう胞がない場合とくらべて22.5倍と高率でした。
⑥ 慢性膵炎
長期に渡る炎症は、がん発生の要因となります(例:慢性胃炎と胃がん、潰瘍性大腸炎と大腸がん)。
慢性膵炎(長期に渡る膵臓の炎症)も、膵がん発生の一因です。
日本からの報告(Ueda J, et al. Surgery 2013;153:357-64)では、慢性膵炎のない人にくらべて、慢性膵炎と診断されてから2年以上経過した人の膵がんのリスクは11.8倍に上がっていました。
また同じ報告によると、慢性膵炎の診断後に禁酒した人とくらべて、飲酒を継続した人では膵がん発生のリスクが高いことが分かりました。
⑦ 肥満
近年、肥満と各種がんの関係が注目されています。肥満と関連性があるとされるがんとしては、食道がん(腺がん)、大腸がん、肝臓がん、乳がんなどがありますが、膵がんも関連性が指摘されています。
日本において、肥満度を示すBMI(体重【キログラム】÷身長【メートル】2、標準は18.50〜25未満)が30以上の場合、膵がんのリスクが3.5倍上昇する、と報告されています。
またアメリカからの報告(Li D, et al. JAMA 2009;301:2553-2562)によると、20歳〜49歳からBMIが30以上の場合、膵がんの発生リスクは2.6倍でした。
さらに肥満があると、膵がんの生存期間が短くなる可能性が示されています。