消化器内科・内視鏡科みゆきクリニック

       

院長コラム

COLUMN

今月の1例:虚血性大腸炎

70代女性の方です。

糖尿病、高血圧症、脂質異常症で他院に通院中です。

夕食後に突然、強い下腹部痛を感じました。なんとかトイレに行き、はじめは下痢便、その後、赤黒い便が出たため、翌日に当院を受診されました。

後日、大腸カメラをおこなったところ、S状結腸から下行結腸にかけて縦方向の潰瘍を認めました。潰瘍部には暗紫色に変色している部分も観察されました。

 

 

また腸が全周にわたり赤くむくみ、中が細くなっている部位も見られました。

 

 

これらの症状とカメラの所見から、虚血性大腸炎と診断しました(後日、病理検査でも同様の診断でした)。

入院での治療が必要と判断し、総合病院に入院していただきました。

入院中は禁食と点滴治療で症状が改善し、無事、退院されました。

 

 

<虚血性大腸炎>

 

虚血性大腸炎とは、大腸への血液の流れが一時的に悪くなったため、大腸粘膜に炎症を起こす病気です。

 

虚血性大腸炎の好発部位は、左側の大腸(下行結腸、S状結腸)で、右側の大腸や直腸は稀です。

 

症状は、突然の腹痛(特に左下腹部)とそれに続く下痢血便が特徴的です。

 

特に腹痛は冷や汗をかくほど痛みが強いことがあり、気を失ってしまうこともあります。

 

虚血性大腸炎の診断は、大腸カメラ、腹部CTなどの画像検査です。

 

治療は、症状が軽い場合ならば食事制限と安静、重い場合には入院での絶食・抗生剤の投与となります。

 

最重症で腸がくさった(壊死)場合には、緊急手術が必要になります。

 

 

―虚血性大腸炎に関するQ&A―

 

Q・どのような人が虚血性大腸炎になりやすいですか?

A・虚血性大腸炎は、中高年の女性に多いとされていますが、若い人でもおこりえます。

 

30代の女性。突然の腹痛、下痢、血便で受診されました。

 

虚血性大腸炎の危険因子としては、糖尿病や高血圧症、便秘症、過敏性腸症候群などがあげられています。

 

Q・なぜ虚血性大腸炎は左側の大腸に多いのですか?

A・大腸は、上腸間膜動脈と下腸間膜動脈の2本の動脈から栄養を受けています。

大腸の左側(下行結腸とS状結腸)は、これら2本の動脈の”はざま”にあり、血流の低下に弱い部位とされています。

そのため左側の大腸は、なんらかの原因で血の流れが悪くなると、炎症をおこしやすい場所と考えられています。

 

Q・虚血性大腸炎が疑われるときは、すぐに大腸カメラを受けた方がいいのですか?

A・アメリカのガイドラインでは、症状が出てから48時間以内での大腸カメラが推奨されています。

しかし実際のところは、患者さんの症状などを勘案して、発症48時間以内にこだわらず大腸カメラをおこなうことが多いです。

強い腹痛や発熱がある場合には、大腸カメラによって炎症を悪化させる危険性があります。カメラの前に、腹部CT検査などで炎症の評価をする必要があります。

 

Q・虚血性大腸炎は入院が必要ですか?

A・虚血性大腸炎の治療の原則は、腸の安静と脱水対策、感染予防です。

症状が軽い場合には、かならずしも入院の必要はありません。自宅で安静にしていただき、流動食と十分な水分補給で、数日から1週間程度で症状はよくなります。

しかし痛みや出血がひどい場合には、入院が必要になることがあります。

 

Q・虚血性大腸炎をくり返すことはありますか?

A・虚血性大腸炎をくり返すのは5〜15%程度とされています。

虚血性大腸炎の再発予防としては、糖尿病や血圧のコントロール、便秘予防が重要です。

 

<参考文献>

Brandt, LJ, et al. Am J Gastroenterol 2015;110:18–44

 

注:「今月の1例」は、今月に内視鏡を行なった症例とは限りません。過去の症例も含まれます。

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