消化器内科・内視鏡科みゆきクリニック

       

院長コラム

COLUMN

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の新しい国際診療ガイドライン(Kyoto Guidelines) ③:悪性化の懸念される所見(Worrisome features)その2

2023年に膵管内乳頭粘液性腫瘍(以下、IPMN)の国際診療ガイドラインが改定されました。

本コラムでは、IPMN悪性化の懸念される所見(Worrisome features)6〜10について解説します

(「悪性化の危険性が高い因子」https://miyuki-cl.com/blog/膵管内乳頭粘液性腫瘍(ipmn)の新しい国際診療ガ/

と「悪性化の懸念される所見1〜5」https://miyuki-cl.com/blog/膵管内乳頭粘液性腫瘍(ipmn)の新しい国際診療ガ-2/については、別コラムをご参照ください)

 

6.  嚢胞隔壁の肥厚

 

分枝型IPMNは複数の嚢胞が集まって1つの腫瘍を形成することがあります。

複数ある嚢胞を仕切っている壁を隔壁といいます。

 

<超音波内視鏡>

 

この隔壁の厚さとIPMN悪性化と関係があるとされています。

具体的には隔壁の厚さが2.5mm以上の場合には悪性化に注意という報告が、日本から出ています。

注目すべきは、「隔壁の厚さ2.5mm以上」とIPMN悪性化の高危険因子である「壁在結節5mm以上」は、悪性化のリスクが変わらなかったということです。

ただ他に同様の報告がないことから、隔壁の肥厚は「IPMN悪性化の高危険因子」ではなく、「悪性化の懸念される所見」となったと思われます(私見です)。

ちなみに隔壁の厚さを測るのは、超音波内視鏡検査が有用です。

 

7.  膵管径:5〜9mm

 

膵管(通常の太さは2〜3mm以下)が太くなるほど、悪性の頻度が高くなるとされています。

しかし膵管径と悪性の関係は報告によって様々です。

何mmで区切れば悪性と良性の判断ができるかは、まだ結論が出ていません。

今回のガイドラインでは、前回のガイドラインと同様に、5〜9mmの膵管径は悪性化の懸念される所見として弱く推奨されています。

*このガイドラインが出た後に、東京大学から3,000人以上のIPMN患者さんをフォローした論文が発表されました。これによると、膵管の太さが5〜9mmの場合の悪性化のリスクは、膵管の太さが5mm未満の場合の5倍でした。

 

8. 尾側膵萎縮を伴う膵管の狭窄

 

膵管の太さが一部で細くなり(狭窄)、それより尾側の膵臓がヤセている(萎縮)場合には、悪性の可能性を考える必要があります。

しかしこの因子と悪性IPMNとの関連については、今のところ明確なエビデンスはありません。

ただし膵管の一部が細くなり、それよりも尾側の膵管拡張と膵臓の萎縮を認める場合には、細くなっている部位に膵がんができている可能性がある要注意所見です。

その場合には、専門施設で精密検査を受ける必要があります。

 

9. リンパ節腫大

 

リンパ節が腫れている(腫大)原因として、悪性の場合(リンパ節の転移)と良性(多くは炎症)の場合があります。

画像から明らかなにリンパ節転移と分かることがありますが、実際は良悪性の区別が難しいこともあります。

リンパ節腫大が悪性IPMNと関連するとの報告はあるものの、「尾側膵萎縮を伴う膵管の狭窄」と同様、明確なエビデンスはありません。

 

10. 1年での嚢胞の増大:2.5mm以上

 

経過とともに嚢胞が大きくなっている場合、悪性化の可能性があることが以前より指摘されていました。

前回(2017年)の国際ガイドラインでは、「2年間で5mm以上の増大」を悪性化の懸念される所見としていました。

今回のガイドラインでは、「1年間で2.5mm以上の増大」に変更されました。

前述の東京大学の論文でも、嚢胞が1年で2.5mm以上大きくなった場合、4倍の悪性化率でした(嚢胞の増大が2.5mm/年未満と比べて)。

しかし単に嚢胞が大きくなったたけで手術をした場合、全くの良性であることもあり、その場合の手術適応は慎重にすべきとの意見もあります。

他の因子(例えば膵管径、壁在結節など)や嚢胞のある部位、患者さんの状態なども加味して、手術を決めるべきでしょう。

 

<参考文献>

Ohtsuka T, et al. Pancreatology 2024;24:255-70.

Hamada T, et al. Clinical Gastroenterol Hepatol 2024; 22:2413-23.

Iwaya H, et al. Dig. Endosc 2019.

 

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