消化器内科・内視鏡科
- 多摩市連光寺1-8-3
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院長コラム
COLUMN
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50代男性の方です。
心窩部痛を自覚したため、その翌日に当院を受診されました。
ご本人は、胃が悪いものと思っており、胃カメラを希望されておりました。
しかし、問診で心窩部痛以外の症状をうかがったところ、尿の色が濃いことが分かりました。
腹部超音波検査と血液検査をおこない、翌日に胃カメラの予定としました。
腹部超音波検査では、胆嚢内に複数個の結石を認めましたが、胆管には異常を認めませんでした。
翌朝、血液検査結果を確認したところ、肝胆道系酵素が異常に上昇していました。
そのため総胆管結石を疑い、急遽、超音波内視鏡検査をおこないました。
超音波内視鏡検査では、胆嚢内に多数の結石を認めるほか、泥状のものもみられ、また胆嚢の壁はやや厚くなっていました。
<超音波内視鏡>
さらに総胆管内には5〜6mmの結石を2個認めました。
<超音波内視鏡>
以上より総胆管結石と診断し、そのまま日本医科大学多摩永山病院の消化器内科(私が非常勤講師をしています)で診ていただくことになりました。
消化器内科の河野 惟道先生のご判断で、その日のうちに総胆管結石の内視鏡的治療をしていただきました。
(日本医科大学多摩永山病院 河野 唯道先生ご提供)
さらにその2日後には、外科にて胆嚢の切除(腹腔鏡下胆嚢摘出術)もおこなっていただきました。
その3日後には無事、退院となりました。
すなわち本症例は、当院初診から計1週間という極めて短い期間で、総胆管結石の診断・治療および胆嚢摘出術までして退院できたケースです。
大学病院と良い病診連携がおこなわれた証左と考えます。
<経過表>
総胆管結石とは、胆管(胆汁の流れる管)にある結石のことを指します。
総胆管結石は、結石のでき方により以下の2つに大別されます。
① 原発性総胆管結石:総胆管でできた結石
② 二次性総胆管結石:胆嚢内から総胆管に落ちてきた結石(本症例は、これに当たります)
総胆管は細い(通常5, 6mm)ので、胆管内に小さい結石があるだけでも、胆汁の流れが悪くなり症状が出やすくなります。
よくある症状としては、
です。
この3つの症状全てがある場合、急性胆管炎を起こしている可能性があります。
これらの症状に加えて、意識障害やショック状態(血圧の低下など)がある場合には、急性閉塞性化膿性胆管炎による敗血症・菌血症を起こしている危険性があるため、緊急処置(内視鏡的胆管ドレナージ術など)を要します。
また総胆管の出口(十二指腸乳頭)は膵管(膵液の流れる管)と同じため、総胆管結石は膵ぞうにも炎症を起こすことがあります(急性膵炎)。
総胆管結石は症状(上腹部痛、発熱、黄疸)と血液検査から疑われ、画像検査で診断されます。
1.血液検査
肝胆道系酵素(AST, ALT, ALP, γGTP)、ビリルビン値が高値となります。
細菌感染を起こしていると、白血球数が増え、CRP値が上昇します。
急性膵炎を起こしていると、膵酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)の値が上昇します。
2. 画像検査
総胆管の画像検査としては、腹部超音波、CT、MRI、超音波内視鏡などがあります。
総胆管結石は、急性胆管炎や急性膵炎を起こす危険性があるため、たとえ症状がなくても治療することが原則です。
その治療法としては、内視鏡的治療と外科的治療があります。
内視鏡的治療は、口から内視鏡を挿入し、十二指腸にある胆管の出口(十二指腸乳頭)を電気メス(内視鏡的乳頭括約筋切開術)や風船(内視鏡的乳頭バルーン拡張術)で広げて、処置具を胆管に入れて石を取り出します。
<内視鏡的乳頭括約筋切開術>
(日本医科大学多摩永山病院消化器内科 河野 唯道先生ご提供)
<内視鏡的乳頭バルーン拡張術>
内視鏡的治療は入院が必要ですが、全身麻酔ではなく鎮静剤・鎮痛剤を使用しておこなわれます。
外科的治療は、全身麻酔下で腹腔鏡下または開腹にて総胆管結石を除去します。
日本の多くの施設では、内視鏡的治療が第一選択としておこなわれています。
Q・総胆管結石の画像診断についてもう少し詳しく教えて下さい
A・まずは腹部エコー。その後、CTやMRIがおこなわれます。これらの検査で総胆管結石が確認できない場合には、超音波内視鏡検査をおこなうことがあります。
総胆管結石が疑われる場合には、まず腹部エコーをおこないます。
しかし腹部エコーの総胆管結石の診断能はそれほど高くありません。
ただ腹部エコーで胆嚢結石の有無や胆管が太さを確認できるので、間接的に総胆管に石があるかもしれないと推測できます。
腹部CTとMRIは、腹部エコーにくらべると総胆管結石の診断能は高いです。
それでも総胆管結石が小さい場合には、CTやMRIで映らないことがあります。
一方、超音波内視鏡は、CTやMRIで同定できないような小さな結石でも診断することが可能です。
しかし超音波内視鏡をできる施設は限られており、また診断精度は施行医の技量に左右します。
通常の総胆管結石診断の流れとしては、
となります。
Q・総胆管結石の内視鏡的治療と外科的治療の違いは?
A・治療の確実性:内視鏡的治療≒外科的治療、治療の身体的負担・安全性:内視鏡的治療 > 外科的治療
総胆管結石には内視鏡的治療、外科的治療がありますが、それぞれ利点と欠点があります。
内視鏡的治療の利点:
・全身麻酔が不要なため、外科的治療とくらべて身体への負担が少ない。
内視鏡的治療の欠点:
・胃の手術をしていると、治療ができないことがある(一部の専門施設では可能ですが)。
・総胆管結石が大きい・数が多い場合には、複数回(2回以上)の治療が必要になることがある。
・内視鏡的治療特有の偶発症として、急性膵炎がある。
外科的治療の利点:
・総胆管結石の治療と胆嚢摘出術が一緒にできる。
・総胆管結石の大きさに関係なく、1回で確実に治療できる。
外科的治療の欠点:
・全身麻酔になるため身体の負担が大きい。
・腹腔鏡での総胆管結石治療は技術的にやや困難で、安全におこなえる施設が限られている。
治療の確実性・安全性の観点から、日本の多くの施設では、内視鏡的治療が総胆管結石の第一選択の治療法としておこなわれています。
Q・総胆管結石を治療した後に、胆嚢をとる必要はありますか?
A・胆嚢に石がある場合には、胆嚢摘出術を受けることが推奨されています。
総胆管結石治療後に胆嚢結石が残っている場合には、再び総胆管に石が落ちてきたり、胆嚢に炎症を起こしたりする危険性があります。
そのため、総胆管と胆嚢の両方に結石がある場合には、総胆管結石だけでなく胆嚢結石も治療することが勧められています。
総胆管結石と胆嚢結石の治療法としては、
① 内視鏡的総胆管結石除去術 → 外科的胆嚢摘出術
② 外科的胆嚢摘出術+総胆管結石除去術
があります。
①にくらべて②は、1回の治療ですみ、入院期間も短くなるという利点はあるものの、日本ではほとんどの施設で①が選択されています。
ただ胆嚢摘出術をするかは、患者さんの状態(年齢や基礎疾患)を十分に考慮して決定されます(高齢や重い持病がある場合には、おこなわないこともあります)。
<参考文献>
日本消化器病学会編集.胆石症診療ガイドライン2021 改訂第3版.
Kondo S, et al. Eur J Radiol 2005;54:271-5.
Boerma D, et al. Lancet 2002;360:761-5.
TsujinoT, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2007;5:130-7.
注:「今月の1例」は、今月に内視鏡を行なった症例とは限りません。過去の症例も含まれます。