消化器内科・内視鏡科
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院長コラム
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2024年に膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の新しい国際診療ガイドラインが発表されました。
最新ガイドラインでは、IPMN悪性化予測因子の改訂がおこなわれています。
このガイドラインが実臨床でどのくらい有効なのかは、今後の検証が必要です。
しかし、早速、東京大学消化器内科の濱田 毅先生らが、多くのIPMN患者さんのデータをもとに最新ガイドラインを検証しました(濱ちゃん、仕事が早すぎる・・・)。
Hamada T, Oyama H, Tange S, Hakuta R, Ishigaki K, Kanai S, Kawaguchi Y, Noguchi K, Saito T, Sato T, Suzuki T, Takahara N, Tanaka M, Hasegawa K, Ushiku T, Nakai Y, Fujishiro M. Clin Gastroenterol Hepatol. 2024 Dec;22(12):2413-2423.e18. doi: 10.1016/j.cgh.2024.05.043. Epub 2024 Jun 14. PMID: 38880125
今回は、この論文について解説します。
・IPMNの最新国際診療ガイドラインでは、IPMN悪性化予測因子として「悪性化の危険性が高い因子」と「悪性化の懸念される所見」に分類している。
・東大病院の3336名のIPMN患者を対象として、それぞれの因子とIPMN悪性化について、短期的と長期的の観点から検討した。
<短期的な(6か月未満)リスク評価>
・3336名のIPMN患者のうち、88名(2.6%)が膵がんと診断された。
・悪性化の危険性の高い因子がある患者の膵がん発生率は、悪性化の懸念のある所見がある患者または悪性化予測因子がない患者とくらべて、高率だった。
・「悪性化の懸念のある所見」の数が多いほど、高率に膵がんが発生した。
<長期的な(6か月以上)リスク評価>
・6.2年間の観察期間で、138名(4.3%)で膵がんが発生した。
・138名の膵がんの内訳は、IPMN由来がんが70名、IPMN併存がんが68名であった。
*(注)IPMN由来がん:嚢胞自体ががん化、IPMN併存がん:嚢胞とは離れた部位ががん化
・悪性化の懸念される所見の数が増えるにつれて、膵がんのリスクが高くなった。
・悪性化の懸念される所見の中では、以下の3因子が膵がんの発生と関連した。
・嚢胞の大きさと膵がんの発生には有意な関連性があった。
・IPMNの診断から10年後と15年後の膵がんの発生率は、2.7%と6.1%であった。
・最新ガイドラインの悪性化予測因子は、IPMN患者における短期的・長期的な膵がん発生を十分に予測しえる。
・悪性化の懸念される所見を多く有するIPMN患者に対しては、より注意が必要である。
本論文は、3000人以上のIPMN患者さんのデータをもとに、世界で初めて最新ガイドラインの検証をおこなったものです。
そして最新ガイドラインでのIPMN悪性化予測因子改訂の妥当性は、ある程度、示されました。
また悪性化が懸念される所見を複数有する場合には、より注意してIPMN患者さんをフォローする必要性が示唆されました。
一方で、IPMN併存膵がんの発生予測には、このガイドラインは不十分であり、さらなる検討を要します。
さらに、IPMN患者さんの経過観察期間についても、患者さんの背景や医療経済も考慮した検証が必要です。
<参考文献>
Hamada T, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2024;22:2413-23.e18.
中井 陽介、他.日消誌 2025;122:17-22.