消化器内科・内視鏡科
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院長コラム
COLUMN
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膵管内乳頭粘液性腫瘍(以下、IPMN)は、膵ぞうにできる嚢胞状の腫瘍です。
IPMNの多くは良性ですが、悪性化することがあります。
IPMNの悪性化には、嚢胞自体ががん化する場合(IPMN由来膵がん)と、嚢胞とは離れた部位にがんができる場合(IPMN併存膵がん)、があります。
IPMN患者さんは定期的な経過観察が必要ですが、その目的は手術可能な段階で膵がんを早期発見することです。
2023年にIPMNの国際診療ガイドラインが改訂され、IPMNの経過観察法も変更となりました。
本コラムでは、新ガイドラインでのIPMN経過観察法について解説します
(「悪性化の危険性が高い因子」、「悪性化の懸念される所見1〜5」、「悪性化の懸念される所見6〜10」については、別コラムをご参照ください https://miyuki-cl.com/blog/膵管内乳頭粘液性腫瘍(ipmn)の新しい国際診療ガ/ https://miyuki-cl.com/blog/膵管内乳頭粘液性腫瘍(ipmn)の新しい国際診療ガ-2/ https://miyuki-cl.com/blog/膵管内乳頭粘液性腫瘍(ipmn)の新しい国際診療ガ-3/)
目次
IPMNの治療(手術)・経過観察の選択は、IPMN悪性化予測因子を判定しておこなわれます。
IPMNの唯一の治療法は、外科的な切除です。
IPMNの手術を考える必要があるのは、以下の2つの場合です。
1) 急性膵炎をくり返す |
2) 複数の悪性化の懸念される因子を有する |
3) 若くて、手術が可能 |
注意していただきたいのは、ガイドラインでは、手術を“考慮する”、という表現が使われていることです。
上記項目に該当したら一律に手術をすべきということでは、決してありません。
手術をするかは、IPMN患者さんの年齢や持病、人生観、手術の肉体的・精神的負担、手術しない場合のリスク(悪性化リスク)、などを熟慮して決められます。
IPMNの悪性化は、嚢胞の大きさと関係していると報告されています。
そのため新ガイドラインでは、嚢胞の大きさによって以下のように定期検査の推奨期間を定めています。
今回のガイドライン改訂でのトピックの1つは、「IPMNの経過観察中止」、というオプションが登場したことです。
これは、生涯にわたる経過観察による患者さんの精神的・肉体的負担、IPMN患者さんの数が増えることによる医療側のキャパシティと医療費の問題、などが背景にあります。
経過観察の終了を考慮してよいのは、
1) 嚢胞の大きさが20mm未満 |
2) IPMN悪性化予測因子がない |
3) 5年間、IPMNに変化がない |
の全てを満たす場合です。
しかし、経過観察の終了または継続の決定には、IPMN併存膵がんのリスク、患者さんの年齢や全身状態、余命、希望、などが十分に考慮されます。決して、一律に終了するというわけではありません。
一方で、患者さんが手術に耐えられない場合や余命が10年未満の場合には、経過観察を中止すべき、と記載されています。
これは、IPMNの経過観察の目的(手術できる膵がんを発見する)を考えると、当然のことでしょう(余命10年未満については、議論の余地がありそうですが)。
A・画像検査(腹部CT、MRI、超音波内視鏡)と血液検査です。
繰り返しになりますが、IPMNを経過観察する目的は、根治できる段階で膵がんを見つけることです。
IPMNの悪性化の診断能は、CT、MRI、超音波内視鏡で同等と報告されています。
ガイドラインでは、MRIでの経過観察が望ましく、MRIで変化があったらCTや超音波内視鏡を追加するのがよい、と記載されています。
一方で、画像診断法は医療機関の方針で変更可能、との追記があります。
国や地域によって各種検査の受けやすさが異なっており、“国際”診療ガイドラインという性質上、そうした状況を考慮した追記と思われます。
また超音波内視鏡は、実施できる施設が限られており、CTやMRIとくらべて施行医の技量に依存するということもあります。
ちなみに当院では、最初はMRIと超音波内視鏡の両方をおこない、経過観察はMRIと超音波内視鏡を交互にすることが多いです(MRI → 超音波内視鏡 → MRI、など)。
いずれかの検査でIPMNに変化があったり、悪性化が疑われたりした場合には、CTを含めた精密検査をおこなっています。
A・1〜6か月間隔とされています。
ガイドラインでは、悪性化の懸念される所見のあるIPMN患者さんを経過観察する場合、それぞれの悪性化リスクによって、1〜6か月おきの検査を推奨しています。
上述したように、嚢胞の大きさが30mm以上の場合には、6か月毎の検査と記載されています。
一方で、残りの9つの所見については具体的な検査間隔の記載がありません。
患者さんの状態や担当医・施設の見解により、検査間隔が決められるということになるのでしょう。
この点については、今後の検討が必要と思われます。
A・IPMN併存膵がんのリスクを考えると、もう少し短い間隔をお勧めします。
IPMN患者さんに発生する膵がんには、「IPMN由来膵がん(嚢胞自体ががん化)」と「IPMN併存膵がん(嚢胞とは別の部位ががん化)」、があります。
ガイドラインでの経過観察間隔は、IPMN由来膵がんをターゲットに決められたものです。
一方で、とくに日本で問題になっているのは、IPMN併存膵がんです。
IPMN併存膵がんは、IPMNの大きさに関係なく発生します。
しかもIPMN併存膵がんは、IPMN由来膵がんよりも進行したステージで発見されることがあります。
IPMN併存膵がんを早期診断するための検査間隔については、ガイドラインに記載がありませんし、明確な答えもありません。
日本でIPMNを専門としている施設では、6か月程度の間隔で経過をみているところが多いと思われます。
A・経過観察の終了は患者さんの状況によっても異なり、一概に大丈夫とは言えません。
前述したように、今回のガイドライン改訂において、5年時点での経過観察中止のオプションが提示されています。
一方、東京大学での検討では、嚢胞の大きさが14mm以下のIPMNの10年、15年時点での発がん率は、4.6%、7.4%と報告されています。
これは、一般人口の膵がん発生率の約7倍です。
また、この報告で注目すべきなのは、発生した膵がんの64%がIPMN併存膵がんであったことです。
小さくて変化のない嚢胞そのものが悪性化(IPMN由来膵がん)する危険性は、低いと考えられています。
しかしながら、そんな嚢胞がある場合でも、嚢胞以外の場所に膵がん(IPMN併存膵がん)ができる危険性は決して低くありません。
IPMN併存膵がんは診断時には手術が困難な場合があること、IPMN併存膵がんの危険因子が明らかでないこと、などを考えると、手術に耐えられる年齢までは、5年で区切らずに経過観察をしたほうがいいかもしれません。
注:本コラムの内容は、2025年1月28日時点での見解です。
<参考文献>
Ohtsuka T, et al. Pancreatology 2024;24:255-70.
Oyama H, et al. Gastroenterology 2020;158:226-37.
Hamada T, et al. Clinical Gastroenterol Hepatol 2024; 22:2413-23
国際膵臓学会ワーキンググループ(田中 雅夫訳).エビデンスに基づくIPMN国際ガイドライン 2024版. 医学書院